【ことわざ】
一文高の世の中
【読み方】
いちもんだかのよのなか
【意味】
少しでも多く財産や金銭を持つ者が尊ばれ、世間で力を持つこと。金銭の多さで人の価値や地位が決まるような世の中を皮肉っていう。


【英語】
・Money makes a man(富を持つことが人の地位を作る)
・Money talks.(金が物を言う)
【類義語】
・一文上がり(いちもんあがり)
・金が物を言う(かねがものをいう)
「一文高の世の中」の語源・由来
「一文高」は、たった一文でも多く金を持っている人の方が尊ばれる、という意味を表す言葉です。「一文」とはごく少ない金額を思わせる言い方なので、このことわざには、わずかな差であっても金が多い方を上に見る世の中への皮肉がこめられています。
この表現の古い例は、江戸時代中期の浮世草子(うきよぞうし)『当世銀持気質(とうせいかねもちかたぎ)』(1770年・江戸時代中期、永井堂亀友作)巻四に出てきます。そこには「町人売家の格式といふは〈略〉位は世俗にいふ一文高の世の中」とあり、町人の家や身分のようなものまで、金の多さによって格づけされる世間のあり方を言い表しています。
『当世銀持気質』は、巻一から巻五まである作品で、永井堂亀友による明和七年、つまり1770年の版が伝わっています。この作品は、当世の「銀持」、すなわち金を持つ人々の気質を扱った小説で、簡潔でユーモアのある形で当時の人々のふるまいや考え方を描いています。
この背景には、江戸時代の浮世草子の流れがあります。浮世草子は、江戸時代の現実の人情や世相を描く小説の一種で、好色物・町人物(ちょうにんもの)・武家物・気質物(かたぎもの)などに分けられます。町人物は町人の経済生活を描くもの、気質物は職業や階級などによって人間の性癖を描き分けようとしたものです。
永井堂亀友は、江戸時代中期の戯作(げさく)者で、宝暦十二年から安永九年ごろまでに、気質物を中心とする浮世草子を多く刊行した人物です。『当世銀持気質』に「一文高の世の中」という言い方が出てくることは、金を持つ者の力や世間の評価を、笑いと皮肉を交えて描く作品の性格とよく合っています。
また、「一文高」に近い言い方として「一文上がり」があります。これは、もとは同じ役をしていても一文でも多く給金を取る役者はどこかすぐれている、という意味から、少しでも多くの財産や権力のある者が尊ばれることを指すようになった言葉です。
このように、「一文高の世の中」は、単に「お金持ちが強い」というだけの言い方ではありません。ほんの一文の差でさえ人の上下を決めてしまうような、金銭を基準にした世間の見方を、短く鋭く表したことわざです。
「一文高の世の中」の使い方




「一文高の世の中」の例文
- 寄付の額だけで発言力が変わる会議を見て、一文高の世の中だと感じた。
- 能力よりも資産の多さで人を判断する風潮は、一文高の世の中そのものだ。
- 地域の行事で大口の支援者ばかりが目立つと、一文高の世の中という言葉が浮かぶ。
- 家柄よりも財産の多さで交際相手を選ぶ話は、一文高の世の中を思わせる。
- 正しい意見でも資金力のある会社に押し切られる場面に、一文高の世の中の厳しさが表れている。
- 一文高の世の中に流されず、人の誠実さや努力を見ようとする姿勢が大切だ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・博文館編輯局校訂『気質全集』博文館、1895年。
・永井堂亀友『禍福廻持当世銀持気質』1770年。
・Elizabeth Knowles ed., 『Little Oxford Dictionary of Proverbs』Oxford University Press、2016年。























