【故事成語】
一を知りて二を知らず
【読み方】
いちをしりてにをしらず
【意味】
あることの一面だけは知っているが、ほかの面については知らないこと。見識が浅く、応用力が足りないこと。


【英語】
・superficial knowledge(うわべだけの知識)
・one-sided view(一方だけに偏った見方)
【類義語】
・一知半解(いっちはんかい)
・井の中の蛙大海を知らず(いのなかのかわずたいかいをしらず)
【対義語】
・一を聞いて十を知る(いちをきいてじゅうをしる)
「一を知りて二を知らず」の故事
「一を知りて二を知らず」は、中国古典の『荘子(そうじ)』外篇・天地に出てくる「識其一、不知其二」という一節にもとづく故事成語です。『荘子』は、中国の戦国時代の思想家・荘周とその後学に関わる思想書で、現行本は三十三編から成り、内篇・外篇・雑篇に分かれています。
この故事の場面では、孔子の弟子である子貢(しこう)が、楚(そ)の国へ行った帰りに漢陰(かんいん)を通ります。そこで子貢は、老人が地下の道を通って井戸に入り、甕(かめ)を抱えて水をくみ、畑にまいているのを見ます。多くの力を使うわりに、成果の少ない仕事ぶりでした。
子貢は老人に、木で作った便利な道具を使えば、一日に多くの畑へ水をやることができ、少ない力で多くの成果を得られると勧めます。ところが老人は、機械を使う者には機事があり、機事がある者には機心がある、と答えます。機心とは、便利さや効率ばかりに引かれる、作為的な心のことです。
老人は、機心が胸にあると純白な心が備わらず、精神が落ち着かず、道にかなわないと考えます。自分はその道具を知らないのではなく、恥じて使わないのだと言います。子貢はその言葉に恥じ入り、しばらく答えることができませんでした。
その後、老人は、子貢が孔子の弟子だと知ると、学問や名声にとらわれているのではないかと厳しく批判します。子貢は動揺し、三十里を歩いて、ようやく気持ちを落ち着かせます。そして弟子たちに、功利や技巧を忘れた老人のような人物こそ、徳の全い人だと語ります。
魯(ろ)の国に帰った子貢は、この出来事を孔子に伝えます。すると孔子は、その老人について、「識其一、不知其二;治其內、而不治其外」と述べます。やさしく言えば、「一つの面は分かっているが、もう一つの面は分かっていない。内面を治めているが、外の世界を治めてはいない」という意味です。
ここで孔子が言う「一」は、自然のままの心を守ることの大切さです。老人は、機械や効率に心を奪われる危うさをよく知っていました。しかし、「二」、つまり、世の中で人々と関わり、外の世界をよく治めることの大切さまでは十分に見ていなかった、という批判がこめられています。
このため、もとの故事は、単に「機械を使うな」という話ではありません。便利さに流される危うさも、世の中に関わって実際に物事を進める必要も、どちらか一方だけでは足りないという深い考えを含んでいます。
後にこの一節は、「物事の一面だけを知って、ほかの面を知らない」という意味で、日本語の表現として用いられるようになりました。夏目漱石の『人生』(1896年)にも、「一を知って二を知らぬものなり」という形の用例があります。
現在の「一を知りて二を知らず」は、知識が少ないというだけでなく、知った一つのことにとどまり、別の面へ考えを広げられないことを戒める言葉です。学ぶときにも、人を判断するときにも、一つの事実だけで分かったつもりにならず、全体を見ようとする姿勢が大切だと教えています。
「一を知りて二を知らず」の使い方




「一を知りて二を知らず」の例文
- 新聞の見出しだけで事件の全体を判断するのは、一を知りて二を知らずというものだ。
- 公式を覚えただけで使い方を理解していなければ、一を知りて二を知らずになってしまう。
- 相手の一度の失敗だけを見て人柄まで決めつけるのは、一を知りて二を知らずだ。
- 商品の値段だけを見て品質や使いやすさを調べない買い方は、一を知りて二を知らずに近い。
- 会社の売上だけを見て社員の働き方を考えない議論は、一を知りて二を知らずである。
- 一を知りて二を知らずにならないよう、問題の原因だけでなく背景まで調べた。
主な参考文献
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・荘周ほか『荘子』。
・小学館ランダムハウス英和大辞典編集委員会編『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。























