【故事成語】
家に杖つく
【読み方】
いえにつえつく
【意味】
五十歳をいう。古代中国で、五十歳になると家の中で杖をつくことを許されたことに基づく。


「家に杖つく」の故事
「家に杖つく」は、中国の古い礼の書物である『礼記(らいき)』の「王制(おうせい)」に基づく言葉です。『礼記』は、戦国時代から秦・漢の時代にかけて述べられた、礼に関する考えを集めた書物で、現在伝わる四十九篇の形は、前漢の戴聖がまとめたものと伝えられています。
「王制」は、国を治める制度や、人々をどのように遇するかを述べた篇です。その中では、年老いた人を大切に扱う決まりが、食事、仕事、儀礼などにわたって、順に記されています。
そこに、「五十杖於家、六十杖於鄉、七十杖於國、八十杖於朝」とあります。これは、五十歳では家の中で杖をつき、六十歳では郷里で杖をつき、七十歳では国の中で杖をつき、八十歳では朝廷でも杖をつく、という意味です。
この一節での杖は、単に歩行を助ける道具として述べられているのではありません。年齢を重ねた人に、より広い場所で杖を用いることを認めることで、その人を敬い、いたわる考えを表しています。同じ箇所には、五十歳になると力仕事に従事させないことや、七十歳になると政治の務めを退くことも記されており、杖の決まりは、年長者を尊ぶ制度の一部でした。
同じ「五十杖於家」から始まる一節は、『礼記』の「内則(だいそく)」にも記されています。「内則」は、家庭生活や身近な礼のあり方を述べる篇であり、ここでも、年齢に応じて年長者を養い、敬う決まりの中に、家で杖をつくことが含まれています。
日本では、『礼記』の漢文を読み下した「五十にして家に杖つく」という形が受け入れられ、五十歳を表す言い方となりました。江戸時代初期の『見聞集(けんもんしゅう)』、一般に『慶長見聞集(けいちょうけんもんしゅう)』とも呼ばれる三浦浄心の書物には、「礼記に五十にして家に杖つく」と記され、原典の言い方が日本語の文章の中で用いられています。
さらに、評判記(ひょうばんき:人物や物事の評判を書いた書物)『たきつけ草』(1677年・江戸時代前期)には、「いゑにつえつくばかりなる、おやぢめきたる」とあります。ここでは、ある人物の年ごろを表す言い方として用いられており、「家に杖つく」が、日本語の中でも五十歳ほどの人物を指す表現として通じていたことが分かります。
このように、「家に杖つく」は、古代中国で年長者を敬うために定められた杖の決まりから生まれ、日本では五十歳を表す言葉として用いられるようになった表現です。年齢を数字で直接示すのではなく、人生の節目を、礼と敬意のこもった姿によって表しているところに、この言葉の特色があります。
「家に杖つく」の使い方




「家に杖つく」の例文
- 『礼記』を学んだ生徒は、「家に杖つく」が五十歳を表す言葉だと理解した。
- 古い物語では、主人公の父が家に杖つく年を迎えたことが、人生の節目として描かれている。
- 歴史資料の読解で、家に杖つく人物とは五十歳ほどの人を指すと確認した。
- 祝いの席では、当主が家に杖つく年になったことを記念して、親族が集まった。
- 漢籍に親しむ祖父は、自分も家に杖つく年を迎えたと、穏やかに語った。
- 江戸時代の文章に出てくる家に杖つく男は、五十歳ほどの人物として読むことができる。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館『大辞泉』編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・『礼記』「王制」「内則」。
・三浦浄心『見聞集(慶長見聞集)』慶長十九年奥書。
・『たきつけ草』1677年。























