【ことわざ】
茨に棘あり
【読み方】
いばらにとげあり
【意味】
見た目の美しいものには、かえって恐ろしいものや害のあるものが隠れていることのたとえ。


【英語】
・No rose is without a thorn(美しいものにも、人を傷つける一面がある)
【類義語】
・刺の無い薔薇は無い(とげのないばらはない)
「茨に棘あり」の語源・由来
「茨(いばら)」は、バラやカラタチなど、とげのある低い木の総称です。また、植物のとげそのものを指す言葉としても使われます。「茨に棘あり」は、花の美しさに目を向けて近づけば、その枝には手を傷つけるとげがあるという、目に見える取り合わせにもとづく表現です。
「いばら」という言葉は、古くからとげのある植物と結び付いていました。『文明本節用集(ぶんめいぼんせつようしゅう)』(室町時代中期成立)には、とげのある低木類を指す言葉として「いばら」が載り、『日葡辞書(にっぽじしょ)』(1603〜1604年・江戸時代初期、イエズス会宣教師数名共編)には、植物のとげ、はりを指す言葉として記されています。花や葉だけでなく、人を刺す鋭さまでも含む言葉として、「茨」は早くから用いられていたのです。
また、「荊棘(けいきょく)」も、イバラやバラなど、とげのある低木を表す言葉です。『凌雲集(りょううんしゅう)』(814年・平安時代初期成立)には、とげのある木を指す用例があり、のちには、イバラの生えた荒れ地や、人を妨げるもの、害を及ぼそうとする心まで表すようになりました。とげのある植物の姿が、目に見えない危険や悪意のたとえへと広がっていったことが分かります。
このことわざと同じ発想を示す古い例は、雑俳集『あづまからげ』(1755年・江戸時代中期、湖月編)に出てきます。そこには、「美しい荊棘にとげの当こすり」とあります。「美しい荊棘」は、花の美しさを備えながら、とげを隠し持つ植物です。その美しさと危うさを重ねた言い回しは、外見の魅力の裏に人を傷つけるものがあるという見方が、江戸時代中期にはすでに表現されていたことを示しています。
この古い例では、「茨に棘あり」という現在の形そのものではなく、「美しい荊棘」と「とげ」とを取り合わせた句になっています。そのため、江戸時代の句から今の定型がただちに生まれたとまでは言い切れませんが、美しい花と痛いとげを対照させ、外見に惑わされる危うさを表す発想は、現在の意味へまっすぐに通じています。
現在の「茨に棘あり」は、「見た目の美しいものには、かえって恐ろしいものが隠れていることのたとえ」として用いられます。ここで大切なのは、「茨」が単に苦しい人生や困難な道を表すのではなく、美しく見えるものの中に、思いがけない害が潜んでいるという点です。華やかな外見、魅力的な誘い、好印象の言葉だけで判断せず、その内側まで確かめるべきだという戒めを表すことわざなのです。
「茨に棘あり」の使い方




「茨に棘あり」の例文
- 豪華な景品を強調する案内を見て、母は茨に棘ありと考え、細かな条件を読み直した。
- 華やかな広告の裏に高額な費用が隠れていることもあり、茨に棘ありの用心が必要だ。
- 見事に飾られた古い家を買う前に、父は茨に棘ありとして傷みの有無を確かめた。
- 高い利益ばかりをうたう誘いに対し、祖父は茨に棘ありと戒めて、安易に契約しなかった。
- 魅力的な無料アプリの案内にも茨に棘ありと気づき、姉は個人情報を入力しなかった。
- 親切そうな言葉だけで相手を信じず、茨に棘ありと心に留めて内容を確かめることが大切だ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・近藤いね子・高野フミ編集主幹『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・湖月編『あづまからげ』1755年。























