【故事成語】
益者三楽、損者三楽
【読み方】
えきしゃさんごう、そんしゃさんごう
【意味】
人が好むものには、自分を成長させる三つの楽しみと、自分を損なう三つの楽しみがあるという教え。有益なのは、礼楽の節度を重んじること、人の善いところを語ること、賢い友を多くもつことであり、有害なのは、おごった享楽、節度のない遊び、酒宴などの快楽にふけることである。


【英語】
・There are three beneficial pleasures and three harmful pleasures.(有益な楽しみが三つ、有害な楽しみが三つある)
「益者三楽、損者三楽」の故事
「益者三楽、損者三楽」は、『論語(ろんご)』の「季氏(きし)」に出てくる孔子の言葉にもとづきます。『論語』は、中国の春秋時代に生きた孔子と弟子たちの言行を伝える書物で、孔子の死後、戦国時代から前漢にかけて、現在の形へと整えられていきました。
原文には、「孔子曰、益者三楽、損者三楽」とあります。続いて、何を好めば自分のためになり、何を好めば自分を損なうのかが、三つずつ挙げられています。
ここで「三楽」を「さんごう」と読むのは、「楽」を「好む、願う」という意味に読む漢文の読み方によります。したがって、この言葉は、単に「楽しいことが三つある」という意味ではなく、「好んで求めるものが三つある」という意味を含みます。
第一の有益な楽しみは、「礼楽(れいがく)の節にかなうことを楽しむ」ことです。古い注釈では、自分の行動が礼と音楽の定める節度に合うことだと解いており、振る舞いや心を正しく整える喜びを表します。
第二は、「人の善を語ることを楽しむ」ことです。他人の欠点や失敗ばかりを話題にするのではなく、人の優れた行いや美点を見つけ、それを言葉にして伝える楽しみを指します。
第三は、「賢友(けんゆう)の多いことを楽しむ」ことです。徳や知恵のある友と交わり、その人々から学べることを喜びとするなら、自分の考え方や行いも磨かれていきます。
これに対して、第一の有害な楽しみは「驕楽(きょうらく)」です。古い注釈では、地位や富などを頼みとして、わがままに振る舞うことと解いています。
第二の「佚遊(いつゆう)」は、決まりや節度を失って遊び歩くことです。休息や遊びを楽しむことではなく、すべきことを忘れ、生活を乱すほど遊びにふけることを戒めています。
第三の「宴楽(えんらく)」は、酒宴や欲望による快楽に深くおぼれることです。古い注釈では、享楽に沈み、節操を失うことを指し、これら三つを「自らを損なう道」としています。
この章のすぐ前には、「益者三友、損者三友」という教えがあります。孔子は、正直で誠実な人や広い知識をもつ人との交わりは有益であり、うわべや口先だけの人との交わりは有害だと説いたあと、続けて、人の楽しみ方にも益と損があると述べています。
江戸時代前期の儒学者である伊藤仁斎は、『論語古義(ろんごこぎ)』(1712年刊)で、人は何かを好み、楽しまずにはいられないが、善いものを楽しめば日ごとに益し、善くないものを楽しめば日ごとに損なわれると解きました。楽しむ心をなくすのではなく、その向かう先を慎重に選ぶことが大切だと受け止めたのです。
「益者三楽、損者三楽」は、同じ楽しみでも、人を高めるものと、人を怠惰やおごりへ導くものとがあることを教えています。何を心から喜び、何に時間を使うかによって、その人の考え方や生き方が形作られていくという戒めです。
「益者三楽、損者三楽」の使い方




「益者三楽、損者三楽」の例文
- 新しい趣味を選ぶとき、私は益者三楽、損者三楽という教えを思い出す。
- 益者三楽、損者三楽にならい、友人の長所を認め、互いに学ぶ時間を大切にした。
- 遊びに夢中で仕事を怠る生活は、益者三楽、損者三楽のうち損者三楽に当たる。
- 先生は益者三楽、損者三楽を取り上げ、楽しみ方にも節度が必要だと説いた。
- 人の悪口より美点を語ろうとする姿勢には、益者三楽、損者三楽の教えが生きている。
- 益者三楽、損者三楽は、何を喜びとして生きるかを考えさせる言葉である。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・『論語』戦国時代から前漢にかけて成立。
・何晏撰『論語集解』魏。
・伊藤仁斎『論語古義』1712年。























