【ことわざ】
餓鬼の断食
【読み方】
がきのだんじき
【意味】
当然のことを、特別なことをしているように言い立て、人前をつくろうことのたとえ。


【英語】
・make a virtue of necessity.(やむをえずすることを、自分で選んだよい行いのように見せる)
【類義語】
・乞食の断食(こじきのだんじき)
・悪女の賢者ぶり(あくじょのけんじゃぶり)
「餓鬼の断食」の語源・由来
「餓鬼の断食」は、仏教の「餓鬼」という言葉をもとにしたことわざです。餓鬼は、餓鬼道に落ち、いつも飢えと渇きに苦しむ亡者を指します。
餓鬼道は、仏教で説く六道の一つです。六道は、行いの結果によって衆生がめぐる世界を表し、餓鬼道は、その中でも飢えと渇きに苦しむ世界として語られてきました。
「餓鬼」という言葉は、日本語の中でも古くから用いられています。『万葉集』(8世紀後半成立、奈良時代)には、餓鬼をたとえに用いた歌があり、仏教的な苦しみの姿を思わせる言葉として、早くから受け入れられていました。
このことわざの面白さは、「餓鬼」と「断食」を取り合わせたところにあります。餓鬼は食べたくても満足に食べられない存在なので、断食しようとしまいと、もともと断食のような状態にあると考えられます。
そこから、食べられないだけなのに、まるで自分の意志で断食しているかのように言う、という皮肉な意味が生まれました。つまり、やむをえない状態を、立派な行いのように見せかけるところに、このことわざの核心があります。
古い用例としては、『永正狂歌合』(1508年・室町時代後期)三番に、「餓鬼の断食」という形が出てきます。そこでは「無酒の断酒」、つまり酒がないために飲まないことを、いかにも自分から断酒しているかのように言う文脈で用いられています。
この用例は、現在の意味にかなり近い使い方です。自分の意志や徳による行いではないのに、あたかも心がけの深い行いであるかのように見せる、という皮肉がすでに表れています。
また、近い発想をもつ表現として、江戸時代前期の『長者教』(1627年)には「こつじきのだんじき」という形が出てきます。これは、食べ物を得にくい乞食が断食しているように見せる、という方向の言い方で、「餓鬼の断食」と同じく、やむをえないことを殊勝げに見せる意味につながります。
さらに、『東海道名所記』(1659〜1661年ごろ・江戸時代前期、浅井了意作)にも、「乞食の断食」という近い表現が出てきます。このような言い方が並んで使われたことから、江戸時代には、外見をつくろう皮肉な表現として、よく理解されていたことが分かります。
「餓鬼の断食」は、宗教的な断食をまじめに批判する言葉ではありません。飢えている餓鬼が「自分は断食している」と言うような不自然さを通して、人前を取りつくろう見栄や言い訳を戒めることわざです。
現在では、食べ物のことに限らず、できないことを「しないことにした」と言い換えたり、仕方なくそうなったことを立派な選択のように言ったりする場面に広く用いられます。表面だけを飾るより、事情を正直に言うことの大切さを教える言葉です。
「餓鬼の断食」の使い方




「餓鬼の断食」の例文
- 会議資料を作る時間がなかったのに、紙を減らすためだと言い張るのは餓鬼の断食だ。
- 雨で遠足に行けなかったことを、今日は休養日にしたのだと自慢するのは餓鬼の断食に近い。
- 商品が売り切れただけなのに、あえて限定販売にしたと宣伝するのは餓鬼の断食である。
- お小遣いを使い切って買えない玩具を、節約のために買わないと言うのは餓鬼の断食だ。
- 招待されなかった行事を、忙しいから欠席したと飾って話すのは餓鬼の断食と言われても仕方がない。
- 予算がなくて企画を中止したのに、無駄を省いたとだけ説明すれば餓鬼の断食になる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・平凡社編『世界大百科事典』平凡社。
・『永正狂歌合』1508年。
・『長者教』1627年。
・浅井了意『東海道名所記』1659〜1661年ごろ成立。























