【ことわざ】
風は吹けども山は動ぜず
【読み方】
かぜはふけどもやまはどうぜず
【意味】
混乱した状態の中にあっても、少しも動じないことのたとえ。


【英語】
・unflappable.(困難な場面でも落ち着いていて動じない)
・as steady as a rock.(岩のようにしっかりして揺るがない)
【類義語】
・泰然自若(たいぜんじじゃく)
・神色自若(しんしょくじじゃく)
・肝が据わる(きもがすわる)
【対義語】
・右往左往(うおうさおう)
・周章狼狽(しゅうしょうろうばい)
「風は吹けども山は動ぜず」の語源・由来
「風は吹けども山は動ぜず」は、どれほど風が吹いても山は動かないという自然の姿をもとにしたことわざです。そこから、周囲が騒がしくても、心や態度が揺るがないことを表すようになりました。
この表現の古い用例として、謡曲「淡路」があります。『大観本謡曲』に伝わる「淡路」は、室町時代末ごろの謡曲で、「和光守護神の扶桑の御国に、風は吹けども山は動ぜず」という一節が見えます。
謡曲「淡路」は、淡路を舞台に、日本の国土の始まりを語る祝言性の強い作品です。詞章では、当今に仕える臣下が淡路を訪れ、神代の古跡を見ようとするところから物語が始まります。
この曲では、前半に田を作る翁が現れ、淡路の神々や国土の成り立ちを語ります。翁は、伊奘諾尊(いざなぎのみこと)と伊奘冊尊の二柱の神に関わる土地として、淡路の由緒を述べます。
後半では、伊奘諾尊が姿を現し、天の浮橋の上で八島の国を求め得た神であると名のります。そこに続いて、「御末は今に君の代より」と謡われ、神代から今の御代まで続く国の安らかさがたたえられます。
その直後に、「和光守護神の扶桑の御国に。風は吹けども山は動ぜず」と謡われます。「扶桑」は日本を指す古い言い方で、この場面では、神に守られた国が揺るがずに治まっていることを、山の不動の姿に重ねています。
ここでの「風」は、単なる自然の風だけでなく、世の乱れや外からの騒ぎを思わせる働きも持っています。それに対して「山」は、どっしりと動かないものの象徴として置かれています。
もとの文脈では、天下泰平や国の安定を祝う言葉として響いています。山が風に動かないように、国も人の心も騒ぎに揺らがないという、めでたい意味合いを帯びています。
その後、この一節は、広く「混乱の中でも少しも動じない」という意味で用いられるようになりました。国の安定をたたえる謡曲の表現から、個人の落ち着いた態度や、周囲に流されない姿勢を表すことわざへと定着したといえます。
現在では、急な騒ぎ、批判、思いがけないトラブルの中でも、冷静に構える人をたたえるときに使われます。大切なのは、何も感じないことではなく、周囲に振り回されず、落ち着いて自分の立場を保つことです。
「風は吹けども山は動ぜず」の使い方




「風は吹けども山は動ぜず」の例文
- 会議で反対意見が続いたが、部長は風は吹けども山は動ぜずの態度で説明を続けた。
- 試合前に相手チームの応援が大きくなっても、主将は風は吹けども山は動ぜずと落ち着いていた。
- 突然の停電で店内がざわついたが、店長は風は吹けども山は動ぜずの様子で客を案内した。
- 周囲のうわさに流されず、彼女は風は吹けども山は動ぜずと自分の研究を進めた。
- 発表中に機械の調子が悪くなっても、先生は風は吹けども山は動ぜずで授業を続けた。
- 困難な状況でこそ、風は吹けども山は動ぜずの心構えが求められる。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・大和田建樹『謡曲評釈 第六輯』博文館、1908年。
・『大観本謡曲』。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary.』
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』























