【ことわざ】
鬼に衣
【読み方】
おににころも
【意味】
表面は慈悲深くおとなしく見えても、内心は鬼のように恐ろしいこと。また、鬼には衣服が必要ないという発想から、不必要なことや不釣り合いなこと。


【英語】
・a wolf in sheep’s clothing(善良そうな外見の下に悪意を隠した人)
【類義語】
・狼に衣(おおかみにころも)
・真綿に針を包む(まわたにはりをつつむ)
【対義語】
・表裏一体(ひょうりいったい)
「鬼に衣」の語源・由来
「鬼に衣」には、異なる発想から生まれた二つの意味があります。一つは、恐ろしい鬼が僧侶の衣をまとい、慈悲深そうな姿に見せかけるという発想です。もう一つは、もともと裸の姿で描かれる鬼に衣服を与えても役に立たないという発想です。
外見は穏やかでも、内心は恐ろしいという意味に近い古い表現として、「狼に衣」があります。『毛吹草(けふきぐさ)』(1638年序・江戸時代前期、松江重頼編)巻二には、「おほかみにころもきせたるごとし」とあります。凶悪な狼に衣を着せ、善良そうな姿に見せかけることを、人の外見と本心が食い違うことのたとえとしたものです。
「鬼に衣」という形の古い用例は、浮世草子(うきよぞうし)『西鶴織留(さいかくおりどめ)』(1694年・江戸時代前期、井原西鶴作、北条団水編)巻五に出てきます。この作品は、西鶴の没後に刊行された六巻の遺稿集で、町人の暮らしや世の人々の生き方を描いています。
巻五では、僧侶の姿をしながらも、仏道より金銭や世間づきあいに心を向ける人々について語っています。頭をそり、墨衣(すみごろも)を着て、外見は僧侶となっていても、「形は出家になれども、中々内心は皆鬼にころもなり」とあります。姿だけは慈悲深い僧侶であっても、心の中は鬼のようであるという意味です。
この用例の「衣」は、単なる衣服ではなく、僧侶が着る墨衣を指しています。鬼の本性を隠すように僧侶の姿をまとっていることから、外見だけはおとなしく善良そうであっても、内心は冷酷で恐ろしい人を表すことわざとなりました。
一方、不必要なことや不釣り合いなことを表す用例は、雑俳集『あかねうら』(1772年ごろ・江戸時代中期)に出てきます。そこには、「鬼に衣やるのはひょんなみやげの絵」とあり、衣服を必要としない鬼に衣を贈るという、奇妙で役に立たない取り合わせを詠んでいます。
こちらの意味では、衣は鬼の恐ろしい本心を隠すものではありません。裸の鬼に衣を着せても無用であるという考えから、相手に必要のない物を与えることや、物事の性質に合わないものを付け加えることを表します。
二つの意味は、同じ「鬼」と「衣」の組み合わせから生まれていますが、たとえ方が異なります。鬼が衣で本性を隠すと考えれば、「外見は穏やかでも内心は恐ろしいこと」となり、鬼には衣が不要だと考えれば、「不必要なこと、不釣り合いなこと」となります。この二つの用法がともに、「鬼に衣」という形で現在まで伝わっています。
「鬼に衣」の使い方




「鬼に衣」の例文
- 親切そうな笑顔の裏で弱い者を苦しめる彼の振る舞いは、まさに鬼に衣だった。
- 慈善家を装いながら寄付金を私物化していた人物は、鬼に衣と呼ぶほかない。
- 丁寧な言葉で相手を安心させてからだますとは、鬼に衣のようなやり方だ。
- 穏やかな態度の陰に冷酷な考えを隠す上司を、部下たちは鬼に衣だと警戒した。
- 小さな倉庫に使い道のない豪華な照明を取り付けるのは、鬼に衣というものだ。
- 機械を扱わない部署へ専門的な工具を大量に贈っても、鬼に衣で役には立たない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・井原西鶴作、北条団水編『西鶴織留』1694年。
・松江重頼編『毛吹草』1638年序。
・『あかねうら』1772年ごろ。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』。























