【故事成語】
難きを先にして獲るを後にす
【読み方】
かたきをさきにしてうるをのちにす
【意味】
困難な仕事や骨の折れる務めを先に行い、自分の利益や報いは後回しにすること。


【英語】
・no pain, no gain.(苦労なくして得るものなし)
【類義語】
・先憂後楽(せんゆうこうらく)
・先義後利(せんぎこうり)
「難きを先にして獲るを後にす」の故事
「難きを先にして獲るを後にす」は、中国古典『論語』(春秋時代の孔子とその門人たちの言行を、孔子の死後に弟子たちがまとめた書物)に由来する故事成語です。『論語』は孔子の言葉や門人との問答を集めた書物で、全二十篇から成ります。
もとになったのは、『論語』雍也(ようや)第六にある「仁者先難而後獲、可謂仁矣」です。日本では「仁者は難きを先にして獲るを後にす、仁と謂ふべし」と訓読されます。
この場面では、孔子の弟子である樊遅(はんち)が、まず「知」とは何かを尋ね、続いて「仁」とは何かを問います。孔子は「知」について、人としてなすべき道を務め、鬼神を敬いながらも近づきすぎないことだと答えます。
そのあと、樊遅が「仁」について尋ねると、孔子は「仁者先難而後獲」と答えます。ここでいう「仁者」は、人を思いやり、正しい道を行おうとする人を指します。
「難」は、骨の折れること、つらく手間のかかることです。「先難」は、困難なことを人より先に引き受けることを表します。
「獲」は、獲物を得るという字ですが、この言葉では功績や利益、報いを得ることを意味します。「後獲」は、義を先にし、自分の利益を後回しにすることを表します。
つまり孔子は、仁のある人とは、まず骨の折れる務めを行い、その結果として得られる利益や報いは後にする人だ、と答えています。先に楽を求めたり、自分だけの得を急いだりする態度とは反対の生き方です。
この章は、単に「難しい仕事から片づける」という作業の順番だけを述べたものではありません。人として大切な務めを先にし、報いを求める心を後にするところに、孔子のいう「仁」のあり方があります。
後の注釈では、「先ず労苦して、而うして後に功を得」と解く考えも示されています。これは、先に労苦を引き受け、そのあとで功績や成果を得る、という意味です。
この言葉は、のちに「先難後獲」という短い形でも用いられるようになりました。「先難後獲」は、先に難事に取り組み、利益は後回しにすること、または苦労した後に利益を得ることを表します。
ただし、「難きを先にして獲るを後にす」は、利益を得る方法だけを教える言葉ではありません。目先の得よりも、まず人としてなすべきことを行うという、道徳的な順序を重んじる表現です。
現在でもこの故事成語は、責任のある立場の人、仲間のために苦労を引き受ける人、利益よりも正しさを先にする人を述べるときに用いられます。難しいことを避けず、報いを急がない姿勢をたたえる言葉として受け継がれています。
「難きを先にして獲るを後にす」の使い方




「難きを先にして獲るを後にす」の例文
- 委員長は目立つ役より先に面倒な準備を引き受け、難きを先にして獲るを後にす姿勢を示した。
- 地域の復旧作業で、彼は自分の店の片づけより人助けを優先し、難きを先にして獲るを後にすを実践した。
- 難きを先にして獲るを後にすという考えで、社長は利益よりも安全対策を先に進めた。
- 研究チームは評価を急がず、地道な検証を重ねることで、難きを先にして獲るを後にす道を選んだ。
- 友人の成功を支えるために裏方の作業を続ける姿は、難きを先にして獲るを後にすそのものだった。
- 難きを先にして獲るを後にすの精神があれば、苦しい役目にも意味を見いだせる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・白川静『字通 普及版』平凡社、2014年。
・円満字二郎編『小学館 故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・金谷治訳注『論語』岩波書店、1999年。
・孔子門人編『論語』。























