【故事成語】
迂直の計
【読み方】
うちょくのけい
【意味】
遠回りに見える方法を、工夫によって近道や有利な方法に変える計略。とくに、敵を油断させて遅らせ、自分は後から出ても先に目的地へ着く兵法をいう。


【英語】
・indirect approach(間接的な進め方・迂回的な戦略)
【類義語】
・急がば回れ(いそがばまわれ)
・搦め手(からめて)
【対義語】
・正攻法(せいこうほう)
「迂直の計」の故事
「迂直の計」は、中国の兵法書『孫子』の「軍争篇」にもとづく故事成語です。原文では「迂直之計」とあり、日本語では「之」を「の」と読んで「迂直の計」と表します。
『孫子』は、中国・戦国時代の兵法書で、全十三編からなります。呉の孫武の著といわれますが、成立年代には未詳な部分があります。
この言葉が出てくる「軍争篇」は、軍が有利な地点や時機をどのように争うかを説く篇です。戦場に先に着いて態勢を整えることは有利ですが、急ぎすぎれば隊が乱れ、兵や物資を失う危険もあります。
『孫子』には、「軍争の難きは、迂を以て直と為し、患を以て利と為す」とあります。これは、遠回りを近道に変え、不利なことを有利なことに変えるのが、機先を制するうえで難しい点だという意味です。
続いて、「其の途を迂にして、之を誘うに利を以てし、人に後れて発し、人に先んじて至る」とあります。遠回りしているように見せ、利益で相手を誘って足を止めさせ、敵より後に出発しても敵より先に着く、という作戦です。
この流れの結びとして、「此れ迂直の計を知る者なり」と述べます。遠回りに見える道を、実際には近道として働かせる計略を知る者こそ、軍争の要点を心得ているということです。
ここで大切なのは、ただ遠回りをすればよいという意味ではないことです。相手の動き、地形、利益の見せ方、出発の時機を合わせて、遠く見える道を勝ちにつながる道へ変える点に、この言葉の核心があります。
「迂」は、曲がること、遠回りすることを表す字です。一方の「直」は、まっすぐなこと、近道のことを表しますから、「迂直」は、遠回りと近道という反対に見える二つを結びつけた表現です。
『孫子』は、のちに中国の代表的な兵法書の一つとして重んじられました。宋代には『孫子』を含む七種の兵法書が「武経七書」として武官養成の教本に選ばれ、兵法の基本書として広く読まれるようになりました。
この背景から、「迂直の計」は、もとは軍事上の具体的な計略を指しました。のちには、正面から急いで進むよりも、相手の心理や状況を見て、回り道に見える方法をとるほうが目的に早く近づく、という広い意味でも用いられるようになりました。
現在の使い方でも、「迂直の計」は単なる遠回りではありません。いったん遠く見える道を選びながら、結果として有利な位置に立つ知恵を表す言葉です。
「迂直の計」の使い方




「迂直の計」の例文
- 新商品をすぐ売り込まず、試用品で信頼を得たのは迂直の計だった。
- 相手の正面から反論せず、別の資料で理解を促したところに迂直の計がある。
- 遠回りに見えた地域調査が、結果として企画を成功させる迂直の計となった。
- 強い相手に直接挑まず、相手の注意が薄い分野から攻めたのは迂直の計だ。
- 基礎練習を重ねてから大会に臨んだことが、勝利への迂直の計になった。
- 交渉で急に条件を出さず、相手の困りごとを聞いたのは迂直の計といえる。
主な参考文献
・小学館『デジタル大辞泉』小学館。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・金谷治訳注『新訂 孫子』岩波書店、2000年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・『孫子』成立年代未詳。























