【ことわざ】
一富士二鷹三茄子
【読み方】
いちふじにたかさんなすび
【意味】
初夢に見ると縁起がよいとされるものを、富士、鷹、茄子の順に並べた言葉。新しい年の幸運を願う初夢のことわざ。


【英語】
・For the first dream of the New Year, an eggplant is good, a hawk is better, and Mt. Fuji is best.(新年の初夢では、茄子はよく、鷹はさらによく、富士山は最も縁起がよい)
【類義語】
・吉夢(きちむ)
【対義語】
・凶夢(きょうむ)
「一富士二鷹三茄子」の語源・由来
「一富士二鷹三茄子」は、中国の古い故事から生まれた故事成語ではなく、日本の初夢の習俗と結びついて伝わったことわざです。初夢は、年の初めに見る夢をいい、古くは節分の夜の夢を指すこともありましたが、のちには大晦日の夜、元日の夜、二日の夜の夢などを指すようになりました。正月の初夢には、その年の吉凶を占う意味があり、よい夢を見るために、宝船(たからぶね)の絵を枕の下に敷く習俗も広まりました。
このことわざは、初夢に出てくると縁起がよいものを、富士、鷹、茄子の順に並べた言い方です。富士山は高く美しい山としてめでたく、鷹は高く飛んで獲物をつかむ鳥として力強く、茄子は「成す」に通じることから、願いごとを成しとげる意味にも結びつけられてきました。こうした説明は、後の時代に、縁起のよい解釈として広がったものです。
由来については、駿河国(するがのくに)に関わる説が多く伝わっています。駿河の名物を順に挙げたものとする説、駿河で「高いもの」を並べたものとする説、また、徳川家康と結びつける説があります。とくに「高いもの」の説では、一に富士山、二に足高山、三に初茄子の値段を挙げたものとされ、現在の「鷹」は、もともと山名の「足高・愛鷹」と結びつけて説明されることがあります。
江戸後期の随筆『甲子夜話(かっしやわ)』(1821年から書き始め、1841年に中絶、松浦清著)にも、このことわざに関わる説明が出てきます。『甲子夜話』は、平戸藩主であり、静山と号した松浦清が、見聞した大名・旗本の逸話や市中の風俗などを書きとめた随筆です。その中では、「高いもの」として富士山、足高山、初茄子が並べられたという説明が伝えられており、初夢の吉夢としてだけでなく、土地の名物や価値の高さと結びつく言い方であったことが分かります。
また、江戸時代の『俚言集覧(りげんしゅうらん)』(江戸時代、太田全斎著)には、「一富士二鷹三茄子四扇五煙草六座頭」という形も伝わっています。これは、三つだけで終わらず、四の扇、五の煙草、六の座頭まで続ける言い方です。ただし、四以下の形は後から付け加えられたものとする説明もあり、広く定着した中心の形は、やはり「一富士二鷹三茄子」です。
古い用例を見ると、このことわざは、はじめから現在の形だけに定まっていたわけではありません。江戸前期の俳諧には、「一富士二鷹」までの形や、三番目がまだ安定していない例も出てきます。のちに「三茄子」が加わることで、富士、鷹という大きく力強いもののあとに、身近な野菜である茄子が来る意外性が生まれ、覚えやすいことわざとして残りやすくなったと考えられます。
三つがそろった古い例としては、狂歌集『巴人集』(1784年)に、初夢とともに「一富士二鷹三茄子」を詠み込んだ歌があります。そこでは、せっかく見たよい初夢を、夢違えをして獏(ばく)に食わせてしまうな、という趣旨で用いられています。獏は悪い夢を食うと考えられた想像上の動物であり、この用例から、十八世紀後半には「一富士二鷹三茄子」が、初夢の吉夢として十分に知られていたことが分かります。
このように、「一富士二鷹三茄子」は、駿河の名物や「高いもの」をめぐる説明、富士・鷹・茄子を縁起よく解釈する考え、そして、初夢で一年の幸運を願う習俗が重なって定着したことわざです。現在では、実際にその夢を見たかどうかだけでなく、新年のめでたさや、よい一年を願う気持ちを表す言い方として親しまれています。
「一富士二鷹三茄子」の使い方




「一富士二鷹三茄子」の例文
- 祖父は、一富士二鷹三茄子の夢を見た孫に、新年から縁起がよいと笑った。
- 正月の朝、母は一富士二鷹三茄子の話をして、初夢にこめられた昔の人の願いを教えた。
- 友人は初夢に富士山が出たと聞いて、一富士二鷹三茄子だから幸先がよいと言った。
- 商店街の初売りでは、一富士二鷹三茄子を描いた飾りで新年のめでたさを表した。
- 会社の年始会で、社長は一富士二鷹三茄子にあやかって、実りある一年にしたいと述べた。
- 一富士二鷹三茄子は、夢の内容から一年の吉兆を願う正月らしい言い方である。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・小学館『デジタル大辞泉』小学館。
・太田全斎『俚言集覧』寛政9年以降成立。
・松浦清『甲子夜話』1821〜1841年。
・喜多村信節『嬉遊笑覧』1830年。























