【ことわざ】
いい後は悪い
【読み方】
いいあとはわるい
【意味】
よいことがあった後には、とかく悪いことが起こりがちなので、調子に乗って油断してはいけないという戒め。


【英語】
・After joy comes sorrow(喜びのあとには悲しみが来る)
【類義語】
・善の裏は悪(ぜんのうらはあく)
・楽あれば苦あり(らくあればくあり)
・禍福は糾える縄の如し(かふくはあざなえるなわのごとし)
【対義語】
・一の裏は六(いちのうらはろく)
・沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり(しずむせあればうかぶせあり)
「いい後は悪い」の語源・由来
「いい後は悪い」は、よいことの後には悪いことが起こりやすいので、よい結果に気をよくしすぎてはならない、という生活上の戒めを表すことわざです。「良い後は悪い」と書く形もあり、よい出来事の直後に気がゆるむ人間の弱さを、短く分かりやすく言い表しています。
このことわざの背景には、吉凶(きっきょう)や禍福(かふく)は一方だけに続かず、たがいに入り混じりながら巡るという考え方があります。近い発想をもつ言い方に「禍福は糾える縄の如し」があり、幸福と不幸が、より合わせた縄のように交互に現れることを表します。
古くは、中国・西晋の孫楚の詩に「吉凶如糾纆、憂喜相紛繞」とあり、よいことと悪いこと、憂いと喜びはからみ合うものとして述べられています。日本でも『平治物語』(1220年ごろ成立か・鎌倉時代)に「吉凶はまつはれる縄のごとしといふぞことはりなる」とあり、吉と凶がより合うように移り変わる考えが、早くから受け入れられていました。
この考えは、よいことの後に悪いことが来るという方向だけでなく、悪いことの後に良いことが来るという方向にも表れます。仮名草子(かなぞうし)『竹斎(ちくさい)』(元和末年ごろ成立・江戸時代前期、富山道冶作)には、「一のうらは六、悪の裏は善也」という形が出てきます。
「一の裏は六」は、さいころの一の目の裏に六の目があることから、悪いことの後にはよいこともあるという意味を表します。これは「いい後は悪い」と向きは逆ですが、よいことと悪いことが裏表のように入れ替わるという、同じ土台の考えにつながっています。
「いい後は悪い」にとくに近い古い言い方として、「善の裏は悪」があります。浮世草子『和国小姓気質』(1746年・江戸時代中期)には、「実(げ)にも善の裏(ウラ)は悪(アク)」とあり、よいことが重なったあとに悪い結果が続いていく文脈で使われています。
ここでいう「善」は、道徳的な善だけでなく、物事がうまく進むこと、都合のよいことも含んでいます。そのため「善の裏は悪」は、幸運や順調さのすぐ裏側に不運や失敗がひそむという意味で、「いい後は悪い」と非常に近い発想をもつ言い方です。
江戸時代には、楽と苦が入れ替わることを表す言い方も広く用いられました。『笑談医者気質』(1774年・江戸時代中期)には「楽(ラク)は苦(ク)の種(タネ)、苦は楽の種」とあり、楽をすれば後に苦しみを生み、苦を忍べば後の楽につながるという考えが示されています。
また、「楽あれば苦あり」は、人生には楽なことも苦しいこともあり、楽ばかりが続くわけではないことを表します。この言い方は江戸のいろはかるたにも入っており、よい時ほど気を引きしめる教えとして、人々に親しまれてきました。
「いい後は悪い」は、こうした吉凶・禍福・楽苦の移り変わりを、さらに日常の言葉で言い表したものです。「善」や「楽」よりもやわらかい「いい」を用いることで、試験でよい点を取った後、商売がうまくいった後、勝負に勝った後など、身近な場面に当てはめやすい形になっています。
このことわざは、よいことが起こるのは悪いことだ、という意味ではありません。むしろ、うまくいった時こそ慢心や油断が生まれやすいため、喜びながらも慎みを忘れないことが大切だと教える言葉です。
「いい後は悪い」の使い方




「いい後は悪い」の例文
- 大会で優勝した直後に練習を休みがちになると、いい後は悪いという結果を招く。
- 売上が伸びた月ほど油断せず点検を続けるのは、いい後は悪いを忘れないためだ。
- テストで高得点を取ったあとに復習を怠れば、いい後は悪いになりかねない。
- 旅行の計画が順調に進んだので、いい後は悪いと考えて持ち物をもう一度確かめた。
- ほめられた途端に態度が雑になった弟を見て、母はいい後は悪いと戒めた。
- 契約が決まった後こそ細部を確かめるべきだと、上司はいい後は悪いを例に挙げた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・富山道冶『竹斎』1621〜1623年ごろ。
・九二軒鱗長『和国小姓気質』1746年。
・Emanuel Strauss, Dictionary of European Proverbs, Routledge, 1994.























