【故事成語】
塩車の憾み
【読み方】
えんしゃのうらみ
【意味】
才能のある人が、その力を認められず、ふさわしくない低い地位や仕事に置かれていることを嘆くたとえ。


【英語】
・unrecognized talent(認められていない才能)
・to live in obscurity(世に知られずにいる)
【類義語】
・驥塩車に服す(きえんしゃにふくす)
・大器小用(たいきしょうよう)
・驥も櫪に伏す(きもれきにふす)
【対義語】
・適材適所(てきざいてきしょ)
「塩車の憾み」の故事
「塩車の憾み」は、中国の古典に出てくる、名馬が粗末な仕事に使われるたとえにもとづく故事成語です。ここでいう「塩車」は塩を積んで運ぶ車、「驥」は一日に千里を走るほどの名馬を指します。
この故事の代表的な形は、『戦国策(せんごくさく)』「楚策」に出てきます。『戦国策』は、中国の戦国時代に諸国を遊説した人々の策謀や弁論を国別に集めた書物で、前漢末の劉向が編んだものです。
話の中で、汗明という人物が春申君に会います。汗明は三か月待って、ようやく春申君に会うことができ、初めは春申君にも気に入られます。
しかし、春申君が一度話を聞いただけで汗明を理解したつもりになると、汗明はさらに自分をよく見てほしいと考えます。そこで、堯と舜のたとえを出し、すぐれた人物同士であっても、互いを知るには時間がかかる、と説きます。
そのあと汗明は、名馬の話をします。『戦国策』には、年ごろになった名馬が、塩を積んだ車を引いて太行山を上る場面が記されています。
その馬は、ひづめを伸ばし、ひざを折り、汗を流しながら、坂の途中でなかなか進めません。重い車を負わされ、自分の本来の力を発揮できない苦しい姿として描かれています。
そこへ、馬を見分ける名人である伯楽が通りかかります。伯楽は車を降りてその馬にすがって泣き、衣を脱いで馬を覆います。
名馬は伯楽に出会うと、頭を下げて鼻を鳴らし、天に届くほど高く鳴きます。これは、自分の価値を知ってくれる人にようやく出会えた喜びを表しています。
汗明は、この名馬を自分になぞらえました。自分も長く世に埋もれてきたので、春申君に見いだしてもらえれば、名馬が伯楽の前で鳴いたように、力を尽くせるという思いを伝えたのです。
この故事から、「驥塩車に服す」は、才能のある者が世に認められずにいることを表す言葉になりました。「塩車の憾み」は、その不遇を嘆く気持ちに重点を置いた言い方です。
また、前漢の賈誼が作った『弔屈原賦』にも、「驥垂兩耳,服鹽車兮」という句が出てきます。名馬が耳を垂れて塩車を引く姿を通して、すぐれた人が正しく用いられない世の中を嘆く表現になっています。
そのため、この故事成語は、単に「つまらない仕事をしている」という意味ではありません。力のある人が、本来の力を発揮できる場を与えられず、心に深い残念さを抱くところに意味の芯があります。
「塩車の憾み」の使い方




「塩車の憾み」の例文
- 高い技術を持つ職人が単純な雑用だけを任されるのは、塩車の憾みというべき状況だ。
- 研究能力のある人材を事務的な作業だけに使うのは、塩車の憾みを生む。
- 彼女ほどの語学力を生かせない部署に置くのは、まさに塩車の憾みだ。
- 才能を認められないまま長く下働きを続ける彼の姿に、塩車の憾みを感じた。
- 優れた企画力があるのに意見を聞いてもらえないのは、塩車の憾みそのものだ。
- 塩車の憾みをなくすには、一人ひとりの能力に合った役割を与えることが大切だ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・劉向編『戦国策』前漢。
・賈誼『弔屈原賦』前漢。
・中華民国教育部『重編國語辭典修訂本』第六版。























