【故事成語】
遠親は近隣に如かず
【読み方】
えんしんはきんりんにしかず
【意味】
遠くにいる親類よりも、近くに住む他人や隣人の方が、いざという時には頼りになるというたとえ。


【英語】
・A neighbor living nearby is better than a relative far away(近くに住む隣人は、遠くの親族よりよい)
・Better is a neighbor that is near than a brother far off(近くの隣人は、遠くの兄弟にまさる)
【類義語】
・遠くの親類より近くの他人(とおくのしんるいよりちかくのたにん)
・遠き親類より近き隣(とおきしんるいよりちかきとなり)
・遠水近火を救わず(えんすいきんかをすくわず)
・遠水渇を救わず(えんすいかつをすくわず)
「遠親は近隣に如かず」の故事
「遠親は近隣に如かず」は、中国の「遠親不如近鄰」を日本語で漢文訓読した言い方です。「如かず」は「及ばない」「かなわない」という意味を表すため、全体としては「遠い親類は近くの隣人に及ばない」という意味になります。
この言葉は、『明心寶鑑(めいしんほうかん)』(明代、范立本編)に出てきます。同書は、修身や人の生き方に関する古い格言を集めた書物で、「遠水難救近火,遠親不如近鄰」とあります。
「遠水難救近火」は、遠くにある水では近くの火事を消すことができない、という意味です。そのすぐあとに「遠親不如近鄰」と続くことで、遠く離れた親類よりも、近くで暮らす隣人のほうが急な時には助けになりやすい、という考えがはっきり示されています。
この表現は、単に親類を軽く見る言葉ではありません。遠くにいる人にはすぐ助けられない場面があり、近くにいる人との日ごろの関係が暮らしを支える、という生活上の知恵を表しています。
古い用例としては、元代の秦簡夫の雑劇『東堂老勸破家子弟(とうどうろうかんぱかしてい)』にも近い形が出てきます。第四折に「豈不聞遠親呵不似我近鄰,我怎敢做的個有口偏無信」とあり、「遠い親類より自分の近い隣人のほうが頼りになると聞かないか、どうして口ばかりで信義のない者になれようか」という趣旨を表します。
この場面では、東堂老という人物が、亡くなった友人から託された息子を教え導き、失われた家産を取り戻させようとします。そこで「遠親呵不似我近鄰」という言葉が使われ、血縁の遠さよりも、そばにいて信義を尽くす人の価値が強調されています。
明代の小説『水滸傳(すいこでん)』第二十四回にも、「常言道:『遠親不如近隣。』休要失了人情」と出てきます。ここでは、近所の人から世話になったなら礼を失ってはいけない、という文脈で用いられています。
『水滸傳』で「常言道」とあることから、この言葉は物語の中で特別に作られた一句ではなく、当時すでに世間に広く通じる言い方として扱われていたことが分かります。暮らしの中で隣人との付き合いを重んじる考えが、古い中国の戯曲や小説にも反映されています。
日本語では、「遠親は近隣に如かず」という漢文調の形のほか、「遠くの親類より近くの他人」「遠き親類より近き隣」など、より日常語に近い形でも定着しました。意味の芯はどれも、距離の遠い血縁よりも、近くで助け合える人間関係が急場で力になる、という点にあります。
この故事成語は、近所付き合いを無理に広げよという命令ではなく、身近な人との信頼をおろそかにしないための戒めとして読むと分かりやすい言葉です。いざという時に支え合える関係は、ふだんのあいさつや小さな思いやりから育つものだと教えています。
「遠親は近隣に如かず」の使い方




「遠親は近隣に如かず」の例文
- 一人暮らしの祖母を近所の人が助けてくれ、遠親は近隣に如かずという言葉を実感した。
- 災害の時にすぐ声をかけ合えたので、遠親は近隣に如かずの大切さが分かった。
- 遠くの親戚に連絡がつかない間、隣人が病院まで付き添ってくれ、遠親は近隣に如かずと思った。
- 地域の見守り活動は、遠親は近隣に如かずという考えにも通じる。
- 困った時に助けてくれたのは近所の人で、まさに遠親は近隣に如かずだった。
- 遠親は近隣に如かずというように、日ごろから近所の人との信頼関係を大切にしたい。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・范立本編『明心寶鑑』明代。
・秦簡夫『東堂老勸破家子弟』元代。
・施耐庵『水滸傳』明代。
・『聖書』「箴言」。























