【故事成語】
一家の富貴は千家の怨み
【読み方】
いっかのふうきはせんかのうらみ
【意味】
一つの家だけが富み栄えると、周囲の多くの人から妬まれたり、恨まれたりすること。


【類義語】
・高木は風に折らる(こうぼくはかぜにおらる)
・出る杭は打たれる(でるくいはうたれる)
「一家の富貴は千家の怨み」の故事
「一家の富貴は千家の怨み」は、中国の古い言い方「一家富貴千家怨」を、日本語のことわざとして読み下した形です。この形は、ただ「豊かな家はうらやましがられる」というだけでなく、一つの家の富や地位が、多くの人の不満や怨みを呼ぶという、社会のきびしい面を言い表しています。
もとの言葉は、元末・明初の学者・葉子奇の『草木子』に出てくる詩の一節に基づきます。『草木子』巻四上「談藪篇」には、「至順辛未間。福建廉訪使蜜蘭沙求仙詩云」として、福建の役人であった密蘭沙が仙を求めた詩が記されています。
その詩は、「刀筆相从四十年。非非是是万千千。一家富贵千家怨。半世功名百世愆」と続きます。ここでは、役所で文書や裁きにかかわる仕事を長く続け、是非の入り乱れる世界に身を置いたのち、一家の富貴は多くの家の怨みを招き、半生の功名は後の世まで残る過ちにもなる、という思いが表されています。
この詩の中の「一家富貴千家怨」は、富や地位を得た一つの家の背後に、多くの人の不満や苦しみがあるかもしれない、という戒めを含んでいます。つまり、単なる嫉妬の話にとどまらず、富貴が人々の間に不公平感や反感を生むことへの反省を述べた言葉です。
後の清代には、翟灝編『通俗編』(乾隆16年、1751年序)にも、この言い方が「一家富貴千家怨」として取り上げられます。『通俗編』は俗語・成語・諺を集めて語源を考える書物で、その「境遇」の項では、この言葉のもとを『草木子』の密蘭沙の詩に求めています。
このように、もとは「一家富貴千家怨」という漢文の形で使われ、のちに日本語では「一家の富貴は千家の怨み」と言い表すようになりました。「千家」は、正確に千軒という数を数える言葉ではなく、非常に多くの家や人々を表す言い方です。
現在の「一家の富貴は千家の怨み」は、ある家や一部の人だけが豊かになると、周囲から羨望や妬みを受けやすい、という意味で用いられます。ただし、もとの詩の背景をふまえると、豊かさを見せびらかす危うさだけでなく、富や名誉が人々の不満を生むことへの戒めとして読むこともできます。
「一家の富貴は千家の怨み」の使い方




「一家の富貴は千家の怨み」の例文
- 村で一軒だけが急に大きな屋敷を建てたため、一家の富貴は千家の怨みという空気が広がった。
- 祖父は、商売がうまくいったときほど一家の富貴は千家の怨みを忘れるなと父に言った。
- 一家の富貴は千家の怨みというように、目立つ成功は思わぬ反感を招くことがある。
- 社長一族だけがぜいたくな暮らしを続け、社員の間には一家の富貴は千家の怨みのような不満が生まれた。
- その町では一部の家だけが開発の利益を得たため、一家の富貴は千家の怨みとなった。
- 一家の富貴は千家の怨みを避けるには、豊かさを独り占めせず、周囲への配慮を忘れないことが大切だ。
主な参考文献
・王剣引等編『中国成語大辞典』上海辞書出版社、1987年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・翟灝編『通俗編』無不宜斎、1751年序。
・葉子奇『草木子』元末・明初。























