【ことわざ】
いやいや三杯
【読み方】
いやいやさんばい
【意味】
口では遠慮して辞退しながら、勧められるままに何杯も飲むこと。転じて、遠慮は口先だけで、実際には厚かましいこと。


【英語】
・false modesty(見せかけの謙遜)
【類義語】
・いやいや三杯十三杯(いやいやさんばいじゅうさんばい)
・いやいや三杯、遁げ遁げ五杯(いやいやさんばい、にげにげごはい)
「いやいや三杯」の語源・由来
「いやいや三杯」は、酒席で杯をすすめられた人が、「いや、もうけっこうです」と口では辞退しながら、実際にはすすめられるままに何杯も飲む様子から生まれたことわざです。ここでいう「三杯」は、酒・茶・飯などを入れた容器三つ分、またはその分量を表す言葉です。
「杯」は、酒を入れて飲む小さな器を指します。また、酒席で杯を受けたり差したりすることも表し、人と人とのやり取りをともなう言葉として使われてきました。
酒席では、すすめられた杯をすぐに受けると遠慮がないように見えるため、いったん辞退する言い方が用いられることがあります。しかし、このことわざでは、その遠慮が本心からではなく、形だけであるところにおかしみがあります。
「いやいや」は、ここでは本当に嫌がっている様子ではなく、口先の辞退を表しています。「三杯」は、少しだけ受けるのではなく、結局は何杯も受けてしまう様子を、分かりやすい数で表したものです。
このことわざは、単に酒を飲む量をいうだけの言葉ではありません。遠慮しているように見せながら、実際には遠慮せずに受け取る人の態度を、少し皮肉をこめて表す言い方です。
似た形として、「いやいや三杯十三杯」や「いやいや三杯、遁げ遁げ五杯」があります。どちらも、辞退の言葉を重ねながら、結局はさらに多く受けるという、口先だけの遠慮を強めて表しています。
この言葉は、上方のいろはかるたにも取り入れられました。とくに大阪のかるたでは、「い」の札に「いやいや三杯」が多かったといわれ、酒席や人づきあいの機微を笑いにした上方らしいことわざとして親しまれてきました。
いろはかるたは、ことわざを札にして覚えやすくした遊びです。地域によって札の内容が異なり、上方系のかるたには、生活の中の人情や皮肉を短く言い表す言葉が多く含まれました。
「いやいや三杯」も、そのような日常の観察から生まれた言葉です。人前では控えめに見せたい気持ちと、実際には受け取りたい気持ちとのずれを、酒席の一場面で軽やかに表しています。
現在では、実際に酒を飲む場面に限らず、食べ物、贈り物、役目、ほめ言葉などをいったん遠慮しながら、結局は受け入れる場合にも使えます。ただし、相手の態度をからかう響きがあるため、目上の人や改まった場面では注意して用いる必要があります。
つまり、「いやいや三杯」は、遠慮の言葉と実際の行動が合っていない様子を、身近な酒席の場面から表したことわざです。口先だけの遠慮や、形ばかりの謙遜を見抜く、生活感のある表現として伝わっています。
「いやいや三杯」の使い方




「いやいや三杯」の例文
- 祖父は甘い物はいらないと言いながら、羊羹を二切れ食べ、いやいや三杯の様子だった。
- 委員長の役は荷が重いと断っていた友人が、推薦されるとすぐ引き受け、いやいや三杯と言われた。
- 土産は遠慮すると言っていた叔母が、結局いちばん大きな包みを選び、いやいや三杯の態度を見せた。
- 表彰されるのは恥ずかしいと話していた選手が、舞台では満面の笑みで賞状を受け取り、いやいや三杯そのものだった。
- 追加の料理はいらないと言っていた客が、すすめられるたびに箸を伸ばし、いやいや三杯のようになった。
- 口では辞退しながら何度も頼みを受け入れる姿は、いやいや三杯ということわざにぴったり合う。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary』。























