【故事成語】
懿公鶴を好む
【読み方】
いこうつるをこのむ
【意味】
君主が人民を顧みず、自分の好みや楽しみにふけることのたとえ。上に立つ者が、支える人々より私的な愛好を大事にして国や組織を乱すことにもいう。


【英語】
・neglect the people for personal pleasures(私的な楽しみにふけって民を顧みない)
・care more for pets than for one’s people(かわいがるものを民より大事にする)
・self-indulgent misrule(私欲におぼれて政治を誤る)
【類義語】
・玩物喪志(がんぶつそうし)
・声色犬馬(せいしょくけんば)
・酒池肉林(しゅちにくりん)
【対義語】
・愛民如子(あいみんじょし)
・仁民愛物(じんみんあいぶつ)
「懿公鶴を好む」の故事
この故事成語は、中国の春秋時代の衛の懿公にまつわる話から来ています。懿公は国をおさめる立場にありながら、たいへん鶴をかわいがったことで知られます。
ただ好んだだけではなく、鶴に特別な待遇を与えたところが、この話の大事な点です。鶴を車に乗せ、まるで身分のある者のように扱ったと伝えられています。
本来、君主が心を配るべきなのは、国を支える家来や民です。ところが懿公は、鶴への思い入れを強くしすぎて、人々の気持ちや国の備えに十分な目を向けることができませんでした。
やがて外敵が攻めてきて、国では兵を出して戦わなければならなくなります。そのとき武具を受け取るはずの人々は、鶴に禄位があるのだから鶴に戦わせよ、と言って従おうとしませんでした。
この言い返しは、ただの皮肉ではありません。上に立つ者が自分の好みを優先し、人を大切にしないなら、人の心は離れてしまうということを、きわめてはっきり示しています。
懿公はその戦いで命を落とし、国も大きな打撃を受けました。鶴をかわいがる話は、君主の私的な楽しみが政治の乱れにつながる例として語り継がれることになります。
この話は『左伝(さでん)』に伝わり、のちには『史記(しき)』にも取り上げられます。古い中国の歴史書の中でくり返し語られたため、単なる珍談ではなく、戒めとして広く知られるようになりました。
ここで大切なのは、鶴そのものが悪いということではありません。好きなものを持つことと、役目を忘れることは別であり、懿公が戒められるのは、順位をまちがえてしまったからです。
つまりこの故事成語は、上に立つ人が私的な愛好に心を奪われ、支える人々の苦労や必要を後回しにする姿を表します。そこからさらに、組織の長が自分の気に入りばかりを重んじて全体を見失う場合にも使われるようになりました。
だから懿公鶴を好むは、ただのぜいたくや道楽をいうだけではありません。人を導く立場にある者が、人より好みを大事にしたために信頼を失い、ついには大きな失敗を招くという、きびしい教訓を含んだ故事成語なのです。
「懿公鶴を好む」の使い方




「懿公鶴を好む」の例文
- 社長が社員の待遇を後回しにして私的な道楽に金を使うなら、懿公鶴を好むというほかない。
- 祭りの責任者が手伝いの人々より自分の趣味の飾りを優先し、懿公鶴を好むとの批判を受けた。
- 部の主将が仲間の練習環境を整えず、気に入りの道具集めに夢中では、懿公鶴を好む姿に近い。
- 家庭を支える金を惜しみながら高価な愛玩動物にはぜいたくを尽くすのは、懿公鶴を好むようなふるまいである。
- 政治を任された者が民の暮らしより自分の楽しみを優先すれば、懿公鶴を好むといわれてもしかたがない。
- 学級委員が係の準備を見ずに自分の好きな飾り付けばかりに時間をかければ、懿公鶴を好む例となる。























