【ことわざ】
板倉殿の冷え炬燵
【読み方】
いたくらどののひえごたつ
【意味】
非の打ち所がないこと。また、火のない冷えた炬燵をしゃれていう言い方。


【英語】
・beyond reproach(非難の余地がない)
・faultless(欠点がない、完全な)
【類義語】
・非の打ち所がない(ひのうちどころがない)
・完全無欠(かんぜんむけつ)
・間然する所がない(かんぜんするところがない)
【対義語】
・不完全(ふかんぜん)
・杜撰(ずさん)
・疎漏(そろう)
「板倉殿の冷え炬燵」の語源・由来
「板倉殿の冷え炬燵」は、江戸時代前期の京都所司代、板倉重宗(いたくらしげむね)にまつわることわざです。重宗は板倉勝重の長男で、父のあと京都所司代となり、長くその職にあり、厳正な裁判で知られました。
京都所司代は、江戸幕府が京都に置いた重要な役職で、京都の治安、朝廷・公家の監察、西国大名の監視などに関わりました。初期には、京都市中だけでなく、畿内や周辺国の民政にも大きな役割を持っていました。
このことわざの中心にあるのは、「非がない」と「火がない」をかけたしゃれです。「非がない」は、欠点や非難すべき点がないという意味で、「火がない」は、炬燵に火が入っていないという意味です。
古い形では「板倉殿」という言い方が、非の打ち所のない人、また火が消えて冷たくなった炬燵をいうしゃれとして用いられました。つまり、人の立派な政治や裁きへの称賛と、寒い炬燵を指す日常の言い方とが、音の近さで結びついた表現です。
早い用例として、江戸時代中期の俳諧集『五元集(ごげんしゅう)』(1747年・江戸時代中期、榎本其角自撰・小栗旨原編)に、「周防どのは、才ある人にて、政事行るるに一生非なし、ひなきをめでて、板くらどのと申とかや」という形が出てきます。
この一節では、周防守であった板倉重宗の政治には一生「非」がなかった、と称えています。その「ひなき」を喜んで「板倉殿」と呼ぶ、という形になっており、すでに「非がない」という評価がしゃれとして受け止められていたことが分かります。
さらに、『諺苑』(1797年・江戸時代後期、太田全斎著)には「板倉殿のひへ火燵」という形が挙げられています。ここでは、ことわざとして「板倉殿」と「冷えた火燵」とが結びつき、現在の形にかなり近い言い回しになっています。
また、喜多村信節(きたむらのぶよ)による随筆『嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)』(1830年・江戸時代後期)にも、「世諺に板倉殿の冷こたつ」という形が出てきます。江戸時代後期には、この言い方が世間で知られたことわざとして扱われていたことがうかがえます。
「板倉炬燵」という短い形も使われ、火のない炬燵をいう江戸言葉として説明されています。これにより、人物への称賛から生まれたしゃれが、実際に「火のない炬燵」を指す言い方としても広がったことが分かります。
重宗の公平な裁きについては、のちの法に関する随筆でも語られています。重宗は白洲に面した障子を閉じ、訴える人の顔を見ず、茶臼をひきながら訴えを聞いたとされ、心を静かに保ち、見た目への好き嫌いに左右されないためであったと伝えられています。
重宗の施政や裁判に関する話は、『板倉政要(いたくらせいよう)』にもつながります。これは、京都所司代であった板倉勝重・重宗父子の施政と断訴を、後人が編集・記録したもので、江戸前期の京都支配を知るうえで重要な史料とされています。
このように、「板倉殿の冷え炬燵」は、単に「こたつが冷たい」という冗談ではありません。欠点のない裁きへの評価が、「非がない」と「火がない」のしゃれを通じて、人物評と生活の言葉を結びつけたことわざとして定着したものです。
「板倉殿の冷え炬燵」の使い方




「板倉殿の冷え炬燵」の例文
- 委員会が作った安全計画は細部まで行き届いており、板倉殿の冷え炬燵といえる。
- その判定は証拠に基づいていて、板倉殿の冷え炬燵のように非難の余地がない。
- 祖父の修理は見えない部分まで丁寧で、板倉殿の冷え炬燵と評された。
- 新しい校則案は、生徒と先生の意見をよく取り入れた板倉殿の冷え炬燵の内容だった。
- 彼女の発表資料は、根拠、順序、図表の使い方まで整った板倉殿の冷え炬燵であった。
- 町内会の会計報告は、一円のずれもなく、板倉殿の冷え炬燵と呼べるほど明確だった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・榎本其角自撰、小栗旨原編『五元集』1747年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・喜多村信節『嬉遊笑覧』1830年。
・『板倉政要』。























