【故事成語】
一目の網は以て鳥を得べからず
【読み方】
いちもくのあみはもってとりをうべからず
【意味】
一つだけの手段や、一部分だけの備えでは、物事を成し遂げられないこと。目的を果たすには、十分な方法・準備・協力が必要だというたとえ。


【類義語】
・網の一目(あみのひとめ)
・衆力功をなす(しゅりきこうをなす)
「一目の網は以て鳥を得べからず」の故事
この故事成語のもとには、鳥を捕る網のたとえがあります。『淮南子(えなんじ)』(前漢、紀元前139年成立、劉安撰)は、中国の前漢時代に編まれた思想書で、政治・人生・自然の見方を、さまざまなたとえを用いて説いています。
『淮南子』説山訓には、鳥が来ようとしているときには網を張って待つ、鳥を実際に捕らえるのは網の中の一つの目である、しかし一つの目だけの網を作っても鳥を捕る時はない、という趣旨の言葉が出てきます。つまり、成果が出る場所はたしかに一点であっても、その一点だけを切り取ってしまえば、成果を支える広い仕組みがなくなってしまう、ということです。
この一節は、すぐ後で「物事は前もってすべてを読み切ることができない」という考えにつながります。どこに鳥がかかるか分からないからこそ、網は多くの目を備えて広く張る必要があります。それと同じように、人の行動や計画も、一つの方法だけに頼るのではなく、いろいろな備えを整えて時を待つことが大切だと説いています。
同じ趣旨の表現は『文子』巻六にも出てきます。そこでも、鳥が来るのを網で待つ場面を示したあと、鳥を捕るのは網の一目であっても、一目だけの網では鳥を捕れないと述べています。これは、古い中国の思想書の中で、部分と全体の関係を説明するたとえとして、この言い方が用いられていたことを示しています。
日本では、平安時代中期の仏教書『往生要集(おうじょうようしゅう)』(985年成立、源信著)にも、「一目之羅、不レ能レ得レ鳥」という形が確認できます。『往生要集』は、浄土へ往生する道を説いた書物で、この表現は、多くの方法や助けを合わせて大事を成すという文脈で使われています。
また、南北朝時代の史論書『神皇正統記(じんのうしょうとうき)』(1339年成立、1343年改訂、北畠親房著)には、魚を得ることは網の一目によるが、多くの目の力がなければ得ることは難しい、という近い趣旨の言い方が伝わっています。鳥を捕る網のたとえが、魚を捕る網のたとえにも広がりながら、「一つの成果は全体の支えによって生まれる」という考えとして受け取られていたことが分かります。
現在の「一目の網は以て鳥を得べからず」は、こうした古い網のたとえを受け継いだ表現です。何かを成功させるとき、最後に役立つのは一つの作業、一人の力、一つの工夫に見えることがあります。しかし、その一点が働くためには、見えない準備や多くの支えが必要です。この故事成語は、成功を急いで一部分だけに頼るのではなく、全体をよく整える大切さを教える言葉です。
「一目の網は以て鳥を得べからず」の使い方




「一目の網は以て鳥を得べからず」の例文
- 文化祭の出し物は飾りだけ立派にしても成功せず、一目の網は以て鳥を得べからずと分かった。
- 試合で勝つにはエース一人に頼るだけでは足りず、一目の網は以て鳥を得べからずを実感した。
- 自由研究は観察記録だけでなく、考察やまとめも必要で、一目の網は以て鳥を得べからずという言葉が当てはまる。
- 新しい商品を売るには広告だけでなく品質や接客も大切で、一目の網は以て鳥を得べからずと言える。
- 町内会の防災訓練は道具をそろえるだけで終わらず、連絡方法まで決めてこそ、一目の網は以て鳥を得べからずを避けられる。
- チームの発表では資料作り、話し方、時間配分をそろえる必要があり、一目の網は以て鳥を得べからずと先生が助言した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・劉安撰『淮南子』紀元前139年成立。
・『文子』。
・源信『往生要集』985年。
・北畠親房『神皇正統記』1339年成立、1343年改訂。























