【故事成語】
家書万金に抵る
【読み方】
かしょばんきんにあたる
【意味】
離れて暮らす家族からの手紙は、どんな大金にも代えがたいほどありがたく、うれしいものだということ。


【英語】
・A letter from home is worth its weight in gold.(家からの手紙は金にも代えがたいほど貴い)
【類義語】
・家書万金(かしょばんきん)
「家書万金に抵る」の故事
「家書万金に抵る」は、中国・唐の詩人杜甫の詩『春望(しゅんぼう)』に出てくる「家書抵萬金」を、日本語の訓読の形で受け継いだ言葉です。杜甫は712年から770年に生きた盛唐の詩人で、『春望』は五言律詩として伝わっています。
『春望』は、唐の都であった長安(ちょうあん)が戦乱で荒れ、杜甫が家族と離れていた時期の苦しみを詠んだ詩です。詩は「国破山河在」から始まり、都の荒廃と、それでも変わらず春を迎える山河や草木とを対照させています。
この詩が作られた時期は、粛宗(しゅくそう)至徳二載、すなわち757年三月とされます。前年から続く安史の乱(あんしのらん)の中で、杜甫は家族を離れた土地に置き、自分は長安で不自由な身となり、家族の安否を思い続けていました。
詩の中ほどに、「烽火連三月、家書抵萬金」とあります。「烽火(ほうか)」は戦いを知らせるのろしで、ここでは戦乱そのものを表し、「三月に連なり」は、戦いが長く続いていることを示します。
そのあとに続く「家書抵萬金」が、この故事成語のもとになった一節です。「家書」は家族からの手紙を指し、「抵」は相当すること、「萬金」は非常に大きな価値を表します。つまり、戦火の中で届く家族からの手紙は、万金にも値するほど貴い、という意味になります。
この一節の重みは、ただ「手紙がうれしい」というだけではありません。交通も通信も今のように発達していない時代に、戦乱で道が乱れれば、家族が生きているかどうかさえ分からなくなります。その中で届く一通の手紙は、家族の無事を知らせる命の便りでもありました。
『春望』では、花を見ても涙がこぼれ、鳥の声にも別れの悲しみを思うほど、杜甫の心は深く傷んでいます。その流れの中に「家書抵萬金」が置かれているため、家族への思いと、戦乱のつらさが一つに重なっています。
この表現は、のちに詩の一節を離れて、「家族からの便りはたいへん貴い」という意味の故事成語として用いられるようになりました。日本語では「家書、万金に抵る」と訓読され、さらに「家書万金に抵る」という形で定着しました。
「万金」は、文字どおり一万の金だけを指すのではなく、非常に多くの金銭、またはたいへん大きな価値を表す言葉です。そのため「家書万金に抵る」は、手紙を金額で量る表現ではなく、家族の便りがどれほど心を支えるかをいう言葉になっています。
現代では、手紙に限らず、遠く離れた家族からの便り、メール、写真、短い連絡にも気持ちを重ねて使うことがあります。ただし、本来は戦乱や遠方での孤独を背景にした言葉なので、軽い通知ではなく、家族の無事や思いやりが深く感じられる場面に用いるのがふさわしいです。
「家書万金に抵る」の使い方




「家書万金に抵る」の例文
- 海外で一人暮らしを始めた姉にとって、母から届いた手紙は家書万金に抵るものだった。
- 被災地で家族と離れていた父は、無事を知らせる便りを受け取り、家書万金に抵る思いだった。
- 長い入院中に届いた家族からの寄せ書きは、まさに家書万金に抵る励ましとなった。
- 遠征先で不安になっていた選手は、弟からの手紙に家書万金に抵る喜びを感じた。
- 祖父は若いころの単身赴任を思い出し、家書万金に抵るという言葉の重みを語った。
- 戦地から戻った兵士にとって、家族の無事を知らせる一通は家書万金に抵る便りだった。
主な参考文献
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・松浦友久編著『唐詩解釈辞典 校注』大修館書店、1987年。
・杜甫著、下定雅弘・松原朗編『杜甫全詩訳注 一』講談社、2016年。
・彭定求等奉勅編『全唐詩』清、1705〜1706年。























