【故事成語】
寡は衆に敵せず
【読み方】
かはしゅうにてきせず
【意味】
少数の者は、多数の者に立ち向かっても勝つことが難しいということ。


【英語】
・Providence is always on the side of the big battalions.(天はいつも大軍に味方する)
【類義語】
・衆寡敵せず(しゅうかてきせず)
・多勢に無勢(たぜいにぶぜい)
【対義語】
・寡を以て衆を制す(かをもってしゅうをせいす)
「寡は衆に敵せず」の故事
「寡は衆に敵せず」は、中国戦国時代の思想家である孟子の教えを記した『孟子(もうし)』(紀元前4世紀後半成立、戦国時代)の「梁恵王上(りょうけいおうじょう)」に由来します。『孟子』は、仁義にもとづく政治や人の本性について説いた古典です。
この言葉は、孟子が斉(せい)の宣王に政治のあり方を説いた場面に出てきます。宣王は領土を広げ、秦(しん)や楚(そ)などの国々を従わせ、天下を治めたいという大きな望みを抱いていました。
しかし、その望みを武力によって実現しようとする宣王に対し、孟子はそのやり方を「木に登って魚を求める」ようなものだと戒めました。魚が得られないだけでなく、国に災いを招くおそれもあると説いたのです。
孟子は宣王に、「鄒(すう)の国の人々と楚の国の人々とが戦ったなら、どちらが勝つと思いますか」と尋ねました。鄒は小さな国であり、楚は広い領土と大きな勢力をもつ国でした。
宣王が「楚の人々が勝つ」と答えると、孟子は「小固不可以敵大、寡固不可以敵衆、弱固不可以敵強」と述べました。小さいものは大きいものに、少数は多数に、弱いものは強いものに、もとより対抗できないという意味です。
この三つの対句のうち、「寡固不可以敵衆」の部分が「寡は衆に敵せず」のもとになりました。「寡」は少数、「衆」は多数を指し、「敵する」は相手として立ち向かうことを表します。
孟子は、斉が武力だけでほかの国々を従えようとすれば、小国の鄒が大国の楚に挑むのと変わらないと説きました。自国の力を大きく見積もり、数や勢力の差を考えずに戦うことの危うさを示したのです。
ただし、孟子の教えは、少数側には何をしても勝ち目がないというところで終わりません。宣王が仁政(じんせい:民を思いやる政治)を行えば、学問を志す者、農民、商人、旅人、苦しむ人々が斉を頼って集まり、やがて対抗できる者はいなくなると続けています。
つまり、目の前の人数だけを比べれば「寡は衆に敵せず」ですが、人々の信頼を得れば味方が増え、力の差そのものを変えることができます。原典では、数の現実を冷静に認めたうえで、武力ではなく仁義によって人を集める道が示されています。
後に成立した陳寿の歴史書『三国志(さんごくし)』(3世紀・西晋)にも、近い形の「衆寡不敵」が出てきます。董卓(とうたく)を討とうとした張承に対し、弟の張昭が、兵の数に差があり、集めた者たちも訓練されていないため、成功は難しいと諫めた場面です。
『孟子』の「寡は衆に敵すべからず」は、少数と多数の関係を文章の形で述べています。一方、『三国志』の「衆寡不敵」は、それを四字に縮めた形で、日本語では「衆寡敵せず」と読まれるようになりました。
日本の古い用例には、人形浄瑠璃『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』(1770年・江戸時代中期、福内鬼外作)の「寡は衆に敵すべからず」があります。この作品は、平賀源内が福内鬼外の名で書き、明和7年に江戸で初演されました。
現在は、「寡は衆に敵せず」と「衆寡敵せず」の両方が使われます。戦場での兵力差に限らず、多数決、競争、組織同士の対立など、少数側が数の力に押される状況を表す故事成語として定着しています。
「寡は衆に敵せず」の使い方




「寡は衆に敵せず」の例文
- わずかな守備兵で大軍を迎え撃つのは、寡は衆に敵せずで、あまりにも不利だった。
- 会議で反対したのは二人だけだったため、寡は衆に敵せずで多数案が可決された。
- 小さな店が何十もの大型店と価格だけで競うのは、寡は衆に敵せずとなりやすい。
- 選手が二人も退場したチームは、寡は衆に敵せずで相手の攻撃を防ぎ切れなかった。
- 少人数の部署だけで全社的な計画に反対しても、寡は衆に敵せずで意見を通すのは難しい。
- 住民数人で広い山林を捜し続けるには、寡は衆に敵せずで、さらに人手が必要だった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『孟子』戦国時代、紀元前4世紀後半。
・陳寿『三国志』西晋、3世紀。
・福内鬼外『神霊矢口渡』1770年。























