【ことわざ】
皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る
【読み方】
かわをきらせてにくをきり、にくをきらせてほねをきる
【意味】
自分も犠牲や痛手を受けることを覚悟し、その代わりに相手へそれ以上の大きな打撃を与えることのたとえ。


【英語】
・lose the battle to win the war.(大きな勝利のために小さな敗北や損失を受け入れる)
【類義語】
・肉を切らせて骨を断つ(にくをきらせてほねをたつ)
・肉を斬らして骨を斬る(にくをきらしてほねをきる)
・身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ(みをすててこそうかぶせもあれ)
「皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る」の語源・由来
「皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る」は、体の表面から奥へ進む「皮・肉・骨」の順序を使って、損害と反撃の大きさを段階的に表したことわざです。皮は体や物の表面をおおうもの、肉は骨を包む部分、骨は体の支えや物事の中心を表す言葉として使われます。
このことわざでは、まず相手に自分の皮を切らせる程度の傷を受け入れ、その代わりに相手の肉を切るという発想が置かれています。さらに、自分の肉を切られるほどの痛手を覚悟して、相手の骨にまで届く大きな打撃を与える、という流れになります。
つまり、同じ痛手を返すだけではなく、自分が受けた損害よりも大きな打撃を相手に与えるところに、このことわざの要点があります。そのため、単なる我慢や忍耐ではなく、勝つために一時の犠牲を受け入れる強い覚悟を表します。
この言い方と深く関係する形に、「肉を切らせて骨を切る」「肉を切らせて骨を断つ」があります。「肉を切らせて骨を切る」は、自分も痛手を受ける代わりに、相手にそれ以上の打撃を与え、捨て身で敵に勝つことを表します。
また、「肉を斬らして骨を斬る」という形もあります。これは、自分の肉が斬られる危険を冒して相手の骨を斬って倒すこと、すなわち犠牲を恐れず捨て身で敵に勝つことを表します。
表記には、「切る」「斬る」「断つ」の違いがあります。「斬る」は刀で切ることを表し、「断つ」はたち切ることを表します。もとの発想が刃物による勝負を思わせるため、「斬る」や「断つ」の表記も、よく合う形として使われます。
近代の文章では、坂口安吾の『青春論』(1942年、昭和17年、坂口安吾著)に、この言葉が出てきます。同作には「皮を切らして肉を切り、肉を切らして骨を切る」という形で、古くからの言葉として語られています。
『青春論』では、この言葉を宮本武蔵の剣法を論じる場面で取り上げています。坂口安吾は、講釈本で柳生流の極意だと読んだものの、その真偽は請け合わないとしながら、何らかの剣術の極意の言葉として扱っています。
同じ箇所では、宮本武蔵の試合ぶりが、この極意にかなうものとして述べられています。ここでは、相手の攻撃をただ防いで身を守るのではなく、危険を引き受けながら相手に決定的な打撃を与える考え方が示されています。
さらに『青春論』は、「肉を切らして骨を切る」という剣術の極意は、必ずしも武士道の形式と同じではないとも述べています。剣術の場では、相手より少しでも深く切ることが勝敗を分けるという、きびしい勝負の見方が語られています。
こうした背景から、現在の「皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る」は、実際の戦いだけでなく、勝負事や作戦のたとえとしても使われます。小さな損を避けることにこだわらず、大きな目的を達するために、あえて危険や損害を引き受ける場面に当てはまります。
ただし、日常では人を傷つける意味ではなく、あくまで比喩として用いる言葉です。自分も無傷では済まないが、それでも大きな成果を取るという、強い覚悟を表すことわざとして理解するとよいです。
「皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る」の使い方




「皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る」の例文
- 決勝戦では一点を失う覚悟で攻めに出る、皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る作戦が功を奏した。
- 相手に小さな得を譲って大きな契約を取るとは、まさに皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切るやり方だ。
- 強い相手に守ってばかりでは勝てないため、皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る覚悟で反撃した。
- 将棋で大切な駒を一つ失っても相手の王を追い詰めるなら、皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る展開になる。
- 会社は短期の損失を受け入れて新市場を押さえる、皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る判断を下した。
- 皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切るという言葉は、危険を引き受けてでも大きな勝機をつかむ場面に合う。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢検 漢字ペディア』公益財団法人日本漢字能力検定協会。
・坂口安吾『青春論』1942年。
・EDP『英辞郎 on the WEB』EDP。























