【ことわざ】
虻蜂取らず
【読み方】
あぶはちとらず
【意味】
二つのものを同時に得ようとして、結局どちらも得られないこと。欲を出しすぎて失敗することのたとえ。


【英語】
・fall between two stools.(二つの選択肢の間で、どちらもうまくいかない)
【類義語】
・二兎を追う者は一兎をも得ず(にとをおうものはいっとをもえず)
・欲の熊鷹股を裂く(よくのくまたかまたをさく)
【対義語】
・一石二鳥(いっせきにちょう)
・一挙両得(いっきょりょうとく)
「虻蜂取らず」の語源・由来
「虻蜂取らず」は、中国の古い故事に由来する表現ではなく、日本で用いられてきた、欲張りへの戒めを表すことわざです。虻と蜂という、外見がやや似ていて人に警戒されやすい虫を並べ、二つをいっぺんに取ろうとして、結局どちらも取れない姿をたとえにしています。
「虻蜂」という二語を並べた言い方は、古くから、虻と蜂のような小さいながら攻撃力をもつものを表す言葉として使われていました。たとえば『漢書列伝竺桃抄』(1458〜1460年・室町時代)には「あふはちの驥に附くやうにならうとはなにか思わうぞ」という用例があり、「虻蜂」というまとまりが、ことわざになる以前から日本語の中で使われていたことが分かります。
ことわざとしては、古い形に「虻も取らず蜂も取らず」があります。『吾妻録』(1769年・江戸時代中期の俳諧資料)には、「虻も取らず蜂も取らず・女衒も泣き」という形で出てきます。これは、虻も蜂も取れないという、現在の「虻蜂取らず」と同じ考え方を、より長い言い回しで表したものです。
その後、江戸時代後期の人情本『花の志満台』(1836〜1838年)には、「悪くすると虻蜂取らずに、ならうも知れねえやス」という用例が出てきます。この段階では、現在とほぼ同じ「虻蜂取らず」の形で、あれもこれもとねらい、かえってどちらもだめになるという意味で使われています。
このことわざについては、虻と蜂を取ろうとしたのは人なのか、蜘蛛なのか、小鳥なのかなど、いくつかの説があります。蜘蛛の巣にかかった虻と蜂を両方取ろうとしたという説や、小鳥が虻と蜂を食べようとしたという説もありますが、誰がなぜ虻と蜂を取ろうとしたのかは、ことわざの形だけからは断定しにくい部分があります。
一方で、ことわざとしての意味ははっきりしています。虻と蜂のどちらにも手を出そうとして、結局どちらも得られないという形から、欲を出しすぎると失敗する、二つの目的を同時に追いすぎると両方を失う、という教訓が生まれました。後には、同じ発想をもつ「二兎を追う者は一兎をも得ず」という西洋由来のことわざも広まり、「虻蜂取らず」と並んで使われるようになりました。
現在の「虻蜂取らず」は、単に「二つのものが取れなかった」という虫の話ではありません。大切なのは、欲張って二つを同時に追ったために、一つも確実に得られなかったという点です。勉強、仕事、買い物、計画などで、どちらも良さそうに見えて迷い、結局どちらも失敗しそうな場面に、このことわざがよく合います。
「虻蜂取らず」の使い方




「虻蜂取らず」の例文
- 部活動と習い事の大会を同じ日に入れようとして、どちらの準備もできず虻蜂取らずになった。
- 二つの店の安売りを追いかけているうちに、どちらの商品も売り切れ、虻蜂取らずに終わった。
- 新しい企画を三つ同時に進めようとしたが、人手が足りず虻蜂取らずになった。
- 友人二人の誘いにどちらもよい返事をしたため、時間が重なって虻蜂取らずになった。
- 受験勉強で苦手科目を全部一度に直そうとして、基本問題までおろそかになり虻蜂取らずになった。
- 利益の大きい仕事ばかりを二つ同時に追った結果、信頼も契約も失い虻蜂取らずとなった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『吾妻録』1769年。
・松亭金水作『花の志満台』1836〜1838年。
・Merriam-Webster, Merriam-Webster.com Dictionary, “fall between two stools.”























