【故事成語】
眼中人なし
【読み方】
がんちゅうひとなし
【意味】
おごりたかぶって、人を人とも思わず、他人を無視して思うままに振る舞うこと。


【英語】
・like someone owns the place.(その場を自分のもののように振る舞う)
【類義語】
・傍若無人(ぼうじゃくぶじん)
・傲岸不遜(ごうがんふそん)
・人も無げ(ひともなげ)
【対義語】
・人を立てる(ひとをたてる)
「眼中人なし」の故事
「眼中人なし」は、漢字の形では「眼中無人」とも表され、「眼中人無(ひとなし)」と読み下す言い方です。意味は、おごりたかぶって他人のことを考えに入れないさまを表します。
「眼中」は、もとは「目の中」を表す言葉です。そこから、目に入る範囲、さらに意識や関心の及ぶ範囲という意味へ広がりました。
古い用例では、『文華秀麗集』(818年・平安時代前期)に「眼中行涙」という形が出てきます。ここでは、目の中に涙が流れるという、文字どおりの意味に近い使い方です。
その後、『四河入海』(17世紀前期)には「在二眼中一」という形が出てきます。ここでは、目に入る範囲、つまり視界にあるものを表す方向へ意味が広がっています。
この「眼中」が、さらに心の中の関心や意識を表すようになると、「眼中にない」は、相手を気にかけない、問題にしないという意味になります。「眼中人なし」は、その発想を人に向け、他人を自分の関心の内に入れない態度を表す言い方です。
中国語では、日本語の「眼中人なし」に当たる表現として、「目中無人」「旁若無人」「眼空四海」などが用いられます。いずれも、威張った態度や、他人を軽んじる態度を表す成語です。
このうち「目中無人」は、「目の中に人がいない」という形で、自分以外の人を心に置かないことを表します。高慢で人を見下す意味をもち、『初刻拍案驚奇』巻十三に出てくる表現として伝えられています。
『初刻拍案驚奇(しょこくはくあんきょうき)』は、中国明代末の口語短編小説集で、凌濛初の編著です。崇禎元年、1628年に成立し、四十巻から成る擬話本の短編小説を収めています。
『初刻拍案驚奇』巻十三の話では、明代の正徳年間、松江府に厳姓の夫婦がいました。夫婦は晩年に得た子をたいへんかわいがり、その子は成長すると、賭け事や悪い友人との交わりに流れていきます。
その子は、しだいに「目中無人」の悪習を身につけ、自分を天王のように思うまでになります。ついには父にまで乱暴をし、夫婦を深く悲しませる人物として描かれます。
一方で、「無人」という言い方そのものは、さらに古く『世説新語(せせつしんご)』「豪爽」にも出てきます。『世説新語』は、中国南朝宋の劉義慶の撰と伝わる逸話集で、後漢末から東晋末までの人物の言行や逸話を集めた書物です。
『世説新語』の王胡之の話では、詩句に心を奪われ、座中の人々の姿が消えたように感じる場面で「一坐無人」という趣旨の言葉が出てきます。ただし、これは人を軽んじる意味ではなく、心が詩の世界に引き込まれる意味で、「目中無人」とは意味が異なります。
日本語の「眼中人なし」は、近代の文章にもはっきりした用例があります。福沢諭吉の『福翁自伝』(明治31〜32年に新聞連載、明治32年刊)には、アメリカへ渡る前の自分たちを「眼中人なし怖い者なし」と表すくだりがあります。
この場面では、国内で威張っていた書生たちが、初めてアメリカに来て、知らない風俗や習慣に戸惑う姿が語られます。つまり「眼中人なし」は、自信過剰で周囲を軽く見る態度を表し、その態度が広い世界の中で通用しなくなる様子をよく示しています。
現在の「眼中人なし」は、単に自信があることをいうのではありません。他人の立場や気持ちを考えず、自分だけが偉いかのように振る舞う態度を戒める表現として用いられます。
「眼中人なし」の使い方




「眼中人なし」の例文
- 部長は自分の成果ばかりを誇り、部員の努力を認めない眼中人なしの態度を見せた。
- 人気者になったとたん、友人を軽く扱うようになった彼は、まさに眼中人なしだった。
- 小さな成功で眼中人なしになると、周囲からの信頼を失いやすい。
- 会議で他人の発言をさえぎってばかりいる姿は、眼中人なしと言われても仕方がない。
- 店員に横柄な言い方をする客の眼中人なしの振る舞いに、周りの人も眉をひそめた。
- どれほど実力があっても、眼中人なしの態度では人はついてこない。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・教育部『成語典』2020年。
・凌濛初『初刻拍案驚奇』1628年。
・劉義慶『世説新語』南朝宋。
・福沢諭吉『福翁自伝』時事新報社、1899年。
・Merriam-Webster, Merriam-Webster.com Dictionary.























