【故事成語】
狐之を埋めて狐之を搰く
【読み方】
きつねこれをうずめてきつねこれをあばく
【意味】
疑い深さのため、いったん決めたり始めたりしたことを自ら覆し、結局は成し遂げられないこと。


【類義語】
・狐疑逡巡(こぎしゅんじゅん)
【対義語】
・初志貫徹(しょしかんてつ)
「狐之を埋めて狐之を搰く」の故事
この言葉のもとになった一節は、中国古代の歴史書『国語(こくご)』の「呉語(ごご)」にあります。『国語』は、春秋時代の周・魯・斉・晋・鄭・楚・呉・越の出来事や言葉を国ごとにまとめた全二十一巻の書物で、「呉語」は第十九巻に当たります。古くは左丘明の著作と伝えられましたが、実際の編者や成立時期には諸説があります。
「呉語」によると、呉王夫差(ふさ)が兵を起こして越を攻めようとしたとき、越王勾践(こうせん)も軍を出して迎えようとしました。しかし、越の重臣は正面から戦うことを避け、まず使者を呉へ送り、和平を求めるよう勧めました。
勾践はその策を受け入れ、使者を呉王のもとへ送りました。使者は、呉が以前に越を許して存続させたことをたたえたうえで、今になって越を滅ぼせば、呉王自身が先に成し遂げた働きを自ら壊すことになると説きました。
その説得の中に、「夫諺曰、狐埋之而狐搰之、是以無成功」とあります。やさしく言えば、「ことわざに、狐は物を埋めても自分で掘り返すので、何事も成し遂げられないという」と述べたものです。
「搰」は、土を掘って中の物を取り出すことを表します。この古いことわざでは、狐がせっかく物を埋めても、疑うあまりすぐに掘り返してしまう姿を、いったん行ったことを自ら覆し、成果を失う人の行動に重ねています。
越の使者が問題にしたのは、単なる迷いではなく、呉の方針の矛盾でした。呉は一度、滅亡しかけた越を許して立ち直らせ、その寛大さを諸国に示しました。それなのに、後から越を滅ぼせば、埋めた物を自ら掘り返す狐と同じく、完成した功績を自分の手で壊してしまいます。
さらに使者は、そのように前の決定を覆す王を見れば、諸侯も呉を信用して仕えようとは思わなくなると訴えました。つまり、この言葉は、疑い深さによって一つの計画を完成できないことだけでなく、方針をむやみに変え、すでに築いた成果や信用まで失う危うさを表しています。
原文が「夫諺曰」と始まることも大切です。「諺に曰く」とあるため、この言い回しは、使者がその場で作ったものではなく、当時すでに語られていた古いことわざを、外交上の説得に用いた形です。『国語』は、そのことわざが実際の政治や外交を論じる言葉として使われた場面を伝えています。
後の中国では、原文の要点を四字に縮めた「狐埋狐搰」という形も定着しました。疑いが多すぎて態度が定まらず、何度も方針を変えるために物事を成し遂げられない、という意味で用いられます。
日本語の「狐之を埋めて狐之を搰く」は、「狐埋之而狐搰之」を漢文の語順に従って読み下した形です。「搰く」を「あばく」と読み、狐が自ら埋めた物を再び掘り出す動作を表しています。
現在では、よく考えることや慎重に判断することそのものを戒める言葉ではありません。必要な検討を終えた後も疑い続け、決定を何度も覆し、自らの努力や成果を台無しにすることへの戒めとして用います。
「狐之を埋めて狐之を搰く」の使い方




「狐之を埋めて狐之を搰く」の例文
- 委員長は案を決めるたびに不安から撤回し、狐之を埋めて狐之を搰く結果となって、文化祭の準備を遅らせた。
- 父は旅行の予約と取り消しを何度も繰り返し、狐之を埋めて狐之を搰くように家族の計画を振り出しに戻した。
- 彼は友人を信じると決めながら、うわさを聞くたびに約束を破り、狐之を埋めて狐之を搰く振る舞いで友情を損なった。
- 経営陣が新制度を導入してはすぐに廃止する姿は、狐之を埋めて狐之を搰くそのものだった。
- 町は公園の整備を始めた後に方針を何度も覆し、狐之を埋めて狐之を搰くばかりで予算をむだにした。
- 十分な検討を終えたなら、狐之を埋めて狐之を搰くことなく、決めた計画を最後まで進めるべきだ。
主な参考文献
・北京・商務印書館、小学館共同編集『中日辞典 第3版』小学館、2016年。
・飯間浩明編『四字熟語を知る辞典』小学館、2018年。
・大野峻『新釈漢文大系67 国語 下』明治書院、1978年。
・『国語』























