【故事成語】
九層の台は累土より起こる
【読み方】
きゅうそうのうてなはるいどよりおこる
【意味】
九層にもなる高い台も、わずかな土を積むことから始まるように、小さなものの積み重ねが、やがて大きなものを生み出すというたとえ。


【英語】
・Many a little makes a mickle.(小さなものも数多く集まれば大きなものになる)
【類義語】
・塵も積もれば山となる(ちりもつもればやまとなる)
・水積もりて川を成す(みずつもりてかわをなす)
「九層の台は累土より起こる」の故事
「九層の台は累土より起こる」は、中国の古典『老子(ろうし)』第六十四章に由来します。『老子』は『道徳経(どうとくきょう)』とも呼ばれ、老子の著作と伝えられてきましたが、実際の成立や編者には不明な点が多く、現在の形は、中国の戦国時代末期ごろに編集されたと考えられています。
第六十四章には、「合抱之木、生於毫末。九層之臺、起於累土。千里之行、始於足下」とあります。書き下せば、「合抱(ごうほう)の木も毫末(ごうまつ)より生じ、九層の台も累土(るいど)より起こり、千里の行も足下(そっか)より始まる」となります。
「合抱」は、両腕を広げて抱えるほどの大きさを表し、「毫末」は、毛の先のように小さなものを指します。「累土」は積み重ねた土のことで、「九層の台」は、九層にも重なる高い建造物を表します。
一抱えもある大木も、初めは毛先ほどの小さな芽です。高くそびえる台も、初めはわずかな土を積むことから築かれ、どれほど遠い旅も、足元から踏み出す一歩によって始まります。三つのたとえを並べることで、どれほど大きなものでも、小さな始まりを重ねることによって形づくられると説いています。
この一節の前には、安定しているものは保ちやすく、まだ兆しが現れていない事柄には備えやすいとあります。そして、物事がまだ起こらないうちに対処し、乱れないうちに治めるよう説いています。大きな問題になってから慌てるのではなく、物事が小さい段階から丁寧に向き合うことが大切だという教えです。
一節の後には、人は物事が完成しそうなところで失敗しやすいため、終わりにも始めと同じように慎重であれば、失敗しないと続きます。そのため、原典では、ただ少しずつ努力すればよいというだけでなく、小さいうちから注意を払い、最後まで気を緩めないことも説いています。
古い注釈書『老子河上公章句(ろうしかじょうこうしょうく)』は、「九層之臺、起於累土」のあとに、「卑きより高きを立つ」という意味の「從卑立高」を添えています。低い所から積み上げて高いものを築くという理解は、古くから、この一節の基本として受け継がれてきました。
日本の古い用例は、『曾我物語(そがものがたり)』(鎌倉時代末期から室町時代初期成立、作者未詳)巻第四にあります。そこには、「げにや、『きうそうのうてなはるいどよりおこり、せんりのかうは一ぽよりはじまる』といふ老子のをしへも」とあり、『老子』の二つのたとえを続けて引いています。
この場面では、父の敵を討つことを願い続けていた箱王が、源頼朝の箱根参詣を知り、長年の祈りが実を結ぶ機会が訪れたと喜びます。続けて「こうはつもりてついに事をなすものを」と述べ、積み重ねた功が、ついには大きな目的を成し遂げるという意味で、「九層の台」の教えを受け止めています。
原典の「九層之臺、起於累土」は、日本語では「九層の台は累土より起こる」という形に整えられました。「台」は「だい」ではなく「うてな」と読み、「累土」は積み土を意味します。こうして、高い建造物が少量の土から築かれるという具体的な情景が、小さな努力や行いの積み重ねによって大きな成果が生まれることを表す故事成語として定着しました。
「九層の台は累土より起こる」の使い方




「九層の台は累土より起こる」の例文
- 九層の台は累土より起こるというように、毎日覚えた五つの英単語が、やがて大きな語彙の力となった。
- 祖母は九層の台は累土より起こると考え、少額でも欠かさず貯金を続けた。
- 九層の台は累土より起こるの教えを胸に、選手は短い基礎練習を毎日積み重ねた。
- 町の人々は九層の台は累土より起こると励まし合い、少しずつ寄付を集めて図書館を建てた。
- 会社は九層の台は累土より起こるという方針で、小さな作業の改善を重ね、大幅な時間短縮を実現した。
- 九層の台は累土より起こることを忘れず、彼は毎日一ページずつ研究記録を書き続けた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・Jennifer Speake編『The Oxford Dictionary of Proverbs 第6版』Oxford University Press,2015.
・『老子』第六十四章。
・『老子河上公章句』第六十四章。
・『曾我物語』巻第四。























