【故事成語】
禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かず
【読み方】
きんちょう、ももをかぞうるといえどもいっかくにしかず
【意味】
平凡な者が大勢集まっても、ただ一人の優れた人物には及ばないこと。多くのつまらない意見よりも、実力のある人物の一言が重いことのたとえ。


【英語】
・quality over quantity.(量より質)
【類義語】
・雀の千声鶴の一声(すずめのせんこえつるのひとこえ)
・鷙鳥百を累ぬるも一鶚に如かず(しちょうひゃくをかさぬるもいちがくにしかず)
【対義語】
・三人寄れば文殊の知恵(さんにんよればもんじゅのちえ)
「禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かず」の故事
「禽鳥(きんちょう)」は、鳥、または鳥類全体を表す言葉です。「百」は文字どおりの百羽だけでなく、数が非常に多いことを表し、「一鶴」は一羽の鶴を指します。したがって、表面上は「普通の鳥が百羽集まっても、一羽の鶴には及ばない」という意味になります。
この故事成語の考え方の源流には、中国の『漢書(かんじょ)』(後漢、82年ごろ成立、班固撰)「鄒陽伝(すうようでん)」に出てくる「鷙鳥累百、不如一鶚」という言葉があります。「鷙鳥(しちょう)」は鷹や鷲などの荒々しい鳥、「鶚(がく)」は魚を捕らえるのに優れた鳥である、みさごを指します。
この言葉は、前漢の文人である鄒陽が呉王へ差し出した文章に、「臣聞く、鷙鳥百を累ぬるも、一鶚に如かず」と記したものです。古い注釈では、多くの鷙鳥を諸侯に、一羽の鶚を天子になぞらえ、百人の諸侯も一人の天子には及ばないという意味に解しています。
後漢末には、孔融が才能豊かな禰衡を朝廷へ推薦した「薦禰衡表」にも、「鷙鳥累百、不如一鶚」とあります。孔融は、このあとに、禰衡を朝廷に立たせれば、きっと見るべき働きがあるだろうと続け、一人の抜きん出た人物が多くの者に勝るという意味で用いました。
『三国志(さんごくし)』(3世紀後半、西晋、陳寿撰)「呂蒙伝」では、この言葉が、一人の武将の力量をたたえる場面に出てきます。廬陵(ろりょう)で賊が起こり、何人もの武将が討伐に向かっても捕らえられなかったとき、呉の孫権は「鷙鳥累百、不如一鶚」と述べ、呂蒙に討伐を命じました。
呂蒙は現地へ行くと、賊の首謀者を討ち、そのほかの者は解放して平民へ戻しました。多くの武将が成し遂げられなかった仕事を、一人の優れた武将が果たしたため、「百羽の鳥より一羽の鶚」というたとえが、そのまま呂蒙の実力を表したのです。
日本では、『曾我物語(そがものがたり)』(14世紀後半から15世紀前半成立、作者不詳)巻十に、「きんてう百を数ふと雖、一鶴に如かず」という形が出てきます。『曾我物語』は、曾我十郎祐成と五郎時致の兄弟が、父の敵である工藤祐経を討つまでと、その後を描いた物語です。
この言葉が使われるのは、敵討ちを果たして捕らえられた五郎時致が、源頼朝の前で尋問を受ける場面です。祐経の子である犬房は、父を討たれた怒りから五郎の顔を扇で打ち、周囲の者が止めても退こうとしませんでした。そこで頼朝が、まだ尋ねたいことがあるから退くよう命じると、犬房はようやく従いました。
『曾我物語』は、その様子に続けて、「禽鳥百を數ふると雖も一鶴に如かず、數星相連ると雖も一月に如かず」と記しています。多くの鳥も一羽の鶴に及ばず、数多くの星も一つの月には及ばないように、周囲の者が何度言っても動かなかった犬房を、頼朝の一言が従わせたという意味です。
中国の古い表現では「鷙鳥」と「鶚」を対比していましたが、『曾我物語』では、鳥類全体を表す「禽鳥」と、日本人にも親しみ深い「鶴」との対比に変わっています。また、優れた人物の能力だけでなく、君主の言葉がもつ重さを表すたとえとしても使われています。
こうして、「禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かず」は、多くの平凡な者や発言を集めても、一人の優れた人物や、その人物が発する決定的な一言には及ばないことを表すようになりました。単に人数が多ければよいのではなく、能力や判断の質が大切であることを伝える故事成語です。
「禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かず」の使い方




「禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かず」の例文
- 何人もの家臣が解決できなかった難題を名将が一言で片づけ、禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かずを思わせた。
- 会議で意見がまとまらない中、専門家の的確な提案が採用され、禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かずとなった。
- 大勢の選手が苦戦した難しい局面を主将が打開し、禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かずの力を示した。
- 経験豊かな職人が一目で故障の原因を突き止めた様子は、禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かずそのものだった。
- 多くの助言よりも師匠の一言が弟子を迷いから救い、禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かずを実感させた。
- 優れた指導者の判断が混乱を収めたため、人々は禽鳥、百を数うると雖も一鶴に如かずと評した。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・班固『漢書』82年ごろ成立。
・陳寿『三国志』3世紀後半成立。
・作者不詳『曾我物語』14世紀後半〜15世紀前半成立。























