【ことわざ】
腐り縄に馬を繋ぐ
【読み方】
くさりなわにうまをつなぐ
【意味】
危険で頼りにならないものを当てにすること。また、そのために成功がおぼつかないことのたとえ。


【英語】
・a broken reed.(頼りにできない人や物)
【類義語】
・蜘蛛の網に馬を繋ぐ(くものあみにうまをつなぐ)
・蓮の糸で大石を釣る(はすのいとでおおいしをつる)
【対義語】
・大船に乗る(おおぶねにのる)
「腐り縄に馬を繋ぐ」の語源・由来
「腐り縄」とは、古くなって腐り、引っ張る力に耐えられなくなった縄のことです。そのような縄に力の強い馬をつなげば、馬が動いた拍子に縄が切れ、逃げ出したり、人を傷つけたりするおそれがあります。この危うい場面から、頼りにならないものに重大な役目を任せることのたとえとなりました。
このことわざの背景には、中国の古典『書経(しょきょう)』、別名『尚書(しょうしょ)』の「夏書・五子之歌」にある言葉があります。『書経』は、中国古代の君主や重臣の言葉、政治上の戒めなどを集めた書物で、儒教の重要な古典である五経の一つに数えられます。
「五子之歌」は、夏王朝の王である太康が政治を顧みず、狩りにふけったため、国を失うことになったという物語を記しています。太康が長い間戻らず、帰路までふさがれると、母とともに洛水のほとりで待っていた五人の弟たちは、祖先である禹の戒めを思い起こし、兄の行いを嘆く歌を作りました。
その第一の歌に、「予臨兆民、懍乎若朽索之馭六馬」とあります。多くの民を治めることは、腐った手綱で六頭の馬を御するように恐ろしい、という意味です。続いて、「為人上者、柰何不敬」とあり、人の上に立つ者が、どうして慎み深くせずにいられようかと戒めています。
六頭の馬が力強く走れば、腐った手綱はいつ切れるか分かりません。ここでは、国を治めるという大きな務めを、少しの油断で破綻しかねない危険な仕事にたとえています。「朽索の六馬を馭するが如し」という故事成語も、この一節から生まれ、非常に困難で危険なことを表します。
『書経』では「腐った縄で六頭の馬を御する」と表しますが、日本語の「腐り縄に馬を繋ぐ」では、腐った縄に一頭の馬をつなぐ場面へと置き換えています。馬を押さえるには弱すぎる縄を用いるという点は共通しており、どちらも、重大なものを頼りない手段に委ねる危険を示しています。
なお、「五子之歌」は夏王朝を舞台としていますが、現在伝わる本文は、東晋の時代に提出された『古文尚書』の二十五編に含まれています。この二十五編は後世の偽作と明らかになっているため、「朽索之馭六馬」という文章を、そのまま夏王朝当時に書かれた言葉とみなすことはできません。それでも、長く『書経』の一編として読まれ、政治を行う者が細心の注意を払うべきことを説く戒めとして広まりました。
日本語では、助詞の「を」を省いた「腐り縄に馬繋ぐ」という形も用いられます。現在では政治に限らず、能力の足りない人に重大な仕事を任せる場合や、壊れやすい道具、不確かな情報、不十分な仕組みに頼る場合など、失敗や危険が予想されるさまを広く表すことわざとなっています。
「腐り縄に馬を繋ぐ」の使い方




「腐り縄に馬を繋ぐ」の例文
- 連絡を何度も忘れる人に全員の予定管理を任せるのは、腐り縄に馬を繋ぐようなものだ。
- 故障を繰り返す古い機械だけを頼りに生産を続けるのは、腐り縄に馬を繋ぐに等しい。
- 安全点検をしていない橋に大勢を渡らせる計画は、腐り縄に馬を繋ぐほど危険だ。
- 根拠の乏しいうわさだけで家族の大切な財産を動かすのは、腐り縄に馬を繋ぐ行いだ。
- 経験のない一人に祭り全体の安全管理を任せれば、腐り縄に馬を繋ぐ結果になりかねない。
- 不安定な通信回線だけで会社の重要な会議を開くとは、腐り縄に馬を繋ぐ策だった。
主な参考文献
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・教育部國語推行委員會編『重編國語辭典修訂本』教育部、2021年。
・Cambridge University Press, Cambridge Dictionary.
・『尚書(書経)』「夏書・五子之歌」。























