【ことわざ】
鞍掛け馬の稽古
【読み方】
くらかけうまのけいこ
【意味】
実際の場に触れず、代用品や理屈の上だけで行う、役に立たない練習や修行のたとえ。


【類義語】
・畳の上の水練(たたみのうえのすいれん)
「鞍掛け馬の稽古」の語源・由来
「鞍掛け馬」とは、木で馬の形を作り、乗馬の稽古に用いた木馬のことです。「鞍掛馬」とも書き、人がまたがって、馬に乗る姿勢や動作を学ぶための道具でした。
「鞍掛け馬の稽古」は、生きた馬には少しも乗らず、この木馬ばかりを使って乗馬を習うことから生まれたことわざです。木馬による練習だけでは、実際の馬を乗りこなす力が身につかないため、役に立たない修行のたとえとなりました。
木馬は決められた場所から動かず、人の指示に反応することもありません。それに対して、生きた馬は絶えず動くため、乗る人はその動きに合わせ、状況に応じて扱い方を変える必要があります。
この違いから、木馬で学んだ形だけを覚えても、実際の馬を扱う経験がなければ、乗馬の術を身につけたことにはならないという考えが生まれました。「鞍掛馬」という言葉自体にも、木馬に乗ることばかりを学び、実際の馬に乗る術を知らないこと、という意味があります。
鞍掛け馬は、想像の中だけにあった道具ではありません。江戸時代に当たる17世紀から19世紀の「鞍掛木馬(くらかけもくば)」が残っており、実際に乗馬の稽古に用いられた道具であったことが分かります。
現存する鞍掛木馬の一つは、上流の武家の子どもが乗馬を習うために使ったものです。木で組み立てた馬の形に和紙を張り、その上から黒い漆を幾重にも塗って作られています。
こうした道具は、馬に乗る前の備えとしては意味がありました。このことわざが戒めているのは、木馬を使うことそのものではなく、木馬での練習だけを続け、いつまでも生きた馬に乗ろうとしないことです。
表記には、「鞍掛馬」と「鞍掛け馬」があります。「鞍掛馬」は道具の名称として使われ、「鞍掛け馬の稽古」では、送り仮名の「け」を添えた形が広く用いられています。
やがて、このことわざは、乗馬だけでなく、どのような学習や訓練にも用いられるようになりました。理論を覚えたり、代わりの道具で形を練習したりしても、実際の場面で経験を積まなければ、いざというときに役立たないことを表します。
同じ考えを表す「畳の上の水練」も、畳の上で泳ぎ方を習うだけでは、実際の水の中で泳げるようにならないことをたとえたものです。どちらのことわざも、知識や形だけで満足せず、実地の経験へ進むことの大切さを教えています。
「鞍掛け馬の稽古」の使い方




「鞍掛け馬の稽古」の例文
- 包丁を一度も握らず、料理の動画を見るだけでは、鞍掛け馬の稽古になりかねない。
- 英会話の表現を暗記しても、声に出す練習をしなければ、鞍掛け馬の稽古に終わってしまう。
- 避難経路を紙の上で確かめるだけの防災訓練は、鞍掛け馬の稽古となり、非常時に役立たないおそれがある。
- 新しい機械の説明書を読むだけで現物に触れない研修は、鞍掛け馬の稽古というほかない。
- 父は、地図だけを眺めて自転車旅行の準備を終えたつもりになるのは、鞍掛け馬の稽古だと忠告した。
- 選手たちは鞍掛け馬の稽古を避けるため、映像で作戦を学んだ後に実戦形式の練習を行った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・現代言語研究会編『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・東京都江戸東京博物館所蔵『鞍掛木馬』江戸時代。























