【故事成語】
車は三寸の楔を以て千里を駆くる
【読み方】
くるまはさんずんのくさびをもってせんりをかくる
【意味】
小さなものでも、大きな役目を果たすことができるというたとえ。


【類義語】
・山椒は小粒でもぴりりと辛い(さんしょうはこつぶでもぴりりとからい)
【対義語】
・独活の大木(うどのたいぼく)
「車は三寸の楔を以て千里を駆くる」の故事
この言葉は、中国の思想書『淮南子(えなんじ)』(前漢、紀元前140年ごろ、劉安編)の「人間訓(じんかんくん)」にある一節から生まれました。『淮南子』は、淮南王の劉安が多くの学者を集め、自然、人間、政治、社会などについて幅広く論じさせた書物です。
「人間訓」には、「夫車之所以能轉千里者、以其要在三寸之轄」とあります。やさしく言い換えると、「車が千里もの遠い道を進めるのは、その大切なところが、わずか三寸の轄にあるからである」という意味です。
原文の「轄(くさび)」は、車軸の端に差し込み、車輪が外れないように留める小さな棒です。車輪や車体に比べれば目立たない部品ですが、これが抜ければ車輪が外れ、車は進めなくなります。
「三寸」は轄の短さを、「千里」は非常に長い道のりを表します。小さな轄と長い旅路を対照させることで、形は小さくても、全体の働きを左右するほど重要なものがあることを鮮やかに示しています。
この一節は、もともと、人を説得するときの言葉について論じる中に置かれています。その直前には、物事の大切な道理をつかめば、多くの言葉を並べる必要はないという趣旨が述べられています。つまり、長々と話すことよりも、相手を動かす要点を正しく押さえることが大切だという教えを、車の轄にたとえたのです。
日本では、『童子教(どうじきょう)』(13世紀後半から14世紀初頭ごろ・鎌倉時代)に、現在の言い方へつながる早い用例があります。そこには、「車以三寸轄、遊行千里路」とあり、車は三寸の轄によって千里の道を進むと記されています。
『童子教』では、このあとに「人以三寸舌、破損五尺身」と続きます。短い舌から出た不用意な言葉が、人の身を滅ぼすこともあるという意味です。小さな轄が大きな働きを支える一方で、小さな舌が大きな災いを招くこともあるとして、小さなものがもつ力を、良い面と悪い面の両方から教えています。
『童子教』は、礼儀や言葉遣い、日々の心得を子どもに教えるための書物として読み継がれました。江戸時代には寺子屋の教科書として広く用いられ、各地で数多くの版が刊行されたため、この一節も長く人々に親しまれました。
もとの漢文では、車輪を留める部品を「轄」と書いています。日本語では、この字を「くさび」と読み、意味の分かりやすい「楔」の字を用いて、「三寸の楔」と書く形も広まりました。また、結びを「千里を駆くる」とするほか、「千里を遊行す」という形もあります。
このように、「車は三寸の楔を以て千里を駆くる」は、初めは、物事の要点を正しく押さえることの大切さを説くたとえでした。そこから意味が広がり、現在では、小さく目立たない人や物でも、全体を動かし、大きな成果を生み出す重要な役割を果たすことを表す故事成語となっています。
「車は三寸の楔を以て千里を駆くる」の使い方




「車は三寸の楔を以て千里を駆くる」の例文
- 小さなねじ一本が機械全体を支えているとは、まさに車は三寸の楔を以て千里を駆くるである。
- 目立たない記録係の正確な仕事が大会を支え、車は三寸の楔を以て千里を駆くるという言葉を思わせた。
- 毎朝の短い安全確認が大きな事故を防ぐのだから、車は三寸の楔を以て千里を駆くるものだ。
- 舞台裏で合図を送る一人の係員にも、車は三寸の楔を以て千里を駆くるというほど重要な役目がある。
- 研究を成功へ導いたのは一つの小さな観察であり、車は三寸の楔を以て千里を駆くるの好例となった。
- 地域の避難訓練では、連絡を担当する一人一人が、車は三寸の楔を以て千里を駆くる存在となる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・楠山春樹著『淮南子 下 新釈漢文大系62』明治書院、1988年。
・酒井憲二編著『実語教童子教―研究と影印』三省堂、1999年。
・劉安編『淮南子』紀元前140年ごろ。
・『童子教』鎌倉時代。























