【ことわざ】
馬を牛に乗り換える
【読み方】
うまをうしにのりかえる
【意味】
速い馬からのろい牛に乗り換えるように、すぐれたものを捨てて、劣ったものに取り換えることのたとえ。


【英語】
・trade down(より価値の低いものへ替える)
【類義語】
・馬を牛に替える(うまをうしにかえる)
【対義語】
・牛を馬に乗り換える(うしをうまにのりかえる)
「馬を牛に乗り換える」の語源・由来
「馬を牛に乗り換える」は、速く走る馬から、歩みの遅い牛へ乗り換えるという具体的な姿をもとにしたことわざです。馬をすぐれたもの、牛をそれより劣るものとして比べ、よいものを捨てて悪いものを選ぶことを表します。
牛と馬は、古くから人の生活に近い家畜でした。荷を運ぶためにも用いられ、牛は日本各地で物資の輸送に使われ、馬も運搬に用いられたことが知られています。
このことわざでは、牛の力強さや着実さよりも、馬と比べたときの歩みの遅さに目が向けられています。そのため、単に乗り物を替える話ではなく、よりよいものから、わざわざ不利なものへ移るという判断の悪さをたとえる言い方になっています。
古い形としては、「馬を牛に替える」という言い方があります。「替える」は、今あるものを別のものにするという意味をもち、「乗り換える」は、馬や牛に乗るという具体的な動作をよりはっきり示す形です。
この「馬を牛に替える」は、『諺苑(げんえん)』(1797年・江戸時代後期、太田全斎著)に見える古い用例として伝わります。『諺苑』は、俗語や俗諺を集め、いろは順に配した江戸時代の書物です。
『諺苑』に収められていることから、この表現は江戸時代後期には、すでにことわざとして理解されていたことが分かります。そこでは、速い馬から遅い牛へ移るという分かりやすい対比が、すぐれたものを捨てて劣ったものに替える意味へ結びついています。
反対の意味をもつ「牛を馬に乗り換える」は、遅い牛から速い馬へ乗り換えることから、不利なほうをやめて好都合なほうへ移ることを表します。この反対の表現には、江戸時代前期の俳諧集『鷹筑波集(たかつくばしゅう)』(1642年刊、西武編)に関わる古い用例も伝わります。
「牛を馬に乗り換える」が、劣ったものからすぐれたものへ移ることを表すのに対し、「馬を牛に乗り換える」はその逆です。二つのことわざは、牛と馬の対比を使いながら、選択のよしあしを反対向きに表しています。
また、「馬を牛に換える」「馬を牛に乗り換える」といった形も、牛と馬を比べることわざのまとまりの中で扱われています。表記に「替える」「換える」「乗り換える」の違いがあっても、意味の中心は、すぐれたものを捨てて劣ったものに移ることにあります。
現在では、実際に馬や牛に乗る場面ではなく、道具、方法、仕事の進め方、相手や立場の選び方などに広く使います。前より明らかによいものを手放して、不便で劣ったものを選ぶとき、「馬を牛に乗り換える」と表します。
「馬を牛に乗り換える」の使い方




「馬を牛に乗り換える」の例文
- 最新の作業道具を手放して古い道具に戻すのは、馬を牛に乗り換えるようなものだ。
- せっかく使いやすい方法を見つけたのに、わざわざ不便なやり方へ戻すのは馬を牛に乗り換えるに等しい。
- 性能のよいパソコンから動きの遅い機種へ替えたため、馬を牛に乗り換える結果になった。
- 経験豊かな担当者を外して不慣れな人だけに任せるのは、馬を牛に乗り換える判断だ。
- 便利な交通手段をやめて時間のかかる方法を選んだため、馬を牛に乗り換えるような移動になった。
- 今の制度の長所を捨てて欠点の多い案を採るなら、馬を牛に乗り換えることになる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・西武編『鷹筑波集』1642年刊。
・馬場俊臣「『牛』に関することわざ:牛の何をどう捉えてきたか」『札幌国語研究』第15号、北海道教育大学国語国文学会・札幌、2010年。
・Merriam-Webster.com Dictionary, “trade down.”























