【故事成語】
陰徳あれば必ず陽報あり
【読み方】
いんとくあればかならずようほうあり
【意味】
人に知られないところでよい行いをしている者には、必ずはっきりとしたよい報いが現れるということ。


【英語】
・Good deeds are rewarded(善い行いは報われる)
【類義語】
・陰徳陽報(いんとくようほう)
・善因善果(ぜんいんぜんか)
・情けは人の為ならず(なさけはひとのためならず)
・積善の家には必ず余慶あり(せきぜんのいえにはかならずよけいあり)
【対義語】
・悪因悪果(あくいんあっか)
「陰徳あれば必ず陽報あり」の故事
この故事成語のもとになった言い方は、中国・前漢の思想書『淮南子(えなんじ)』の「人間訓(じんかんくん)」にあります。『淮南子』は、前漢の淮南王劉安が編著した哲学書で、現存するものは二十一巻です。
「人間訓」では、聖王が徳を広め、恵みを施すのは、人々から返礼を求めるためではないと説いています。また、祭りを行うのも、鬼神から福を求めるためではないと述べ、よい行いとよい結果の関係を、利益の取り引きとしてではなく、道理として示しています。
その流れの中で、高い山には雲が起こり、深い水には蛟龍が生じ、君子が道を尽くせば福禄が帰ってくる、というたとえが出てきます。つまり、徳を積むことは、すぐに見返りを求める行為ではなく、深く確かなものがあれば、それにふさわしい結果が現れるという考え方です。
続いて、「夫有陰德者,必有陽報;有陰行者,必有昭名。」とあります。これは、人に知られない徳をもつ者には、必ず表に現れる報いがあり、人に知られない行いをする者には、必ず明らかな名がある、という意味です。
ここでいう「陰」は、人目につかないことを表します。「陽」は、隠れていないこと、外にはっきり現れることを表し、陰で行った善いことが、のちに陽の形で報いとなって現れる、という対照が言葉の力になっています。
『淮南子』の同じ箇所では、この言い方のあとに、禹が治水を行い、契が人倫を教え、后稷が農耕を教えたことが挙げられています。これらの人物は、自分のためだけでなく人々の暮らしを助けたため、その後の子孫にまで大きな名誉が及んだ例として語られています。
また、孔子が三代の道を世に教え、その子孫が絶えなかったことも、隠れた行いの報いとして挙げられています。ここでは、その場ですぐに称賛されるかどうかよりも、長く人を助ける徳が、のちの名誉や幸福につながるという見方が示されています。
この考えは、前漢の劉向が編んだ故事・伝説集『説苑(ぜいえん)』の「復恩」にも、よく似た形で語られています。『説苑』は、君主を戒めるための先人の故事や伝説を集めた二十巻の書物です。
『説苑』では、楚の荘王が酒宴を開いたとき、灯火が消えたすきに一人の臣下が無礼を働きます。相手の女性はその者の冠のひもを切って王に知らせますが、荘王はその臣下だけを辱めず、出席者全員に冠のひもを切らせてから、灯火をつけさせました。
その後、晋と楚が戦ったとき、一人の臣下が先頭に立って勇ましく戦い、楚の勝利に力を尽くします。その臣下は、かつて酒宴で罪を見逃された者であり、王が人前に出さずに施した恩に、戦場で目に見える形で報いたのです。
この話の末尾には、「此有陰德者,必有陽報也」とあります。人前で相手を助けるだけでなく、相手の恥をそっと隠すような徳も、のちに大きな報いとなって現れる、という教えがここに込められています。
日本語では、「陰徳あれば必ず陽報あり」のほか、「必ず」を省いた「陰徳あれば陽報あり」という形も用いられます。短い四字の形である「陰徳陽報」も同じ趣旨を表し、古い用例としては、1420年の『応永本論語抄』に「陰徳陽報〈略〉の心也」という形が出てきます。
この故事成語は、善行を目立たせることよりも、人の見ていないところで正しいことをする姿勢を重んじます。報いを目的にして善行を行うというより、誠実な行いは見えないところで積み重なり、やがてよい結果として現れる、という教えとして受け継がれています。
「陰徳あれば必ず陽報あり」の使い方




「陰徳あれば必ず陽報あり」の例文
- 町内の清掃を長年続けてきた人が表彰され、陰徳あれば必ず陽報ありを実感した。
- だれにも知られず後輩の資料を整えていた社員が信頼を得たのは、陰徳あれば必ず陽報ありの一例だ。
- 祖母は人目につかない寄付を続けていたため、地域の人々から深く慕われ、陰徳あれば必ず陽報ありと思われた。
- 友人の失敗を黙って支え続けた彼に、後日大きな助けが返り、陰徳あれば必ず陽報ありとなった。
- 学校の花壇を朝早く世話していた生徒が卒業式で感謝され、陰徳あれば必ず陽報ありという言葉が胸に響いた。
- 災害のあと、名乗らずに物資を届けていた人へ住民から感謝が集まり、陰徳あれば必ず陽報ありの姿となった。
主な参考文献
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・飯間浩明編『四字熟語を知る辞典』小学館、2018年。
・劉安編『淮南子』前漢、紀元前2世紀。
・劉向編『説苑』前漢。























