【故事成語】
禍福は糾える縄の如し
【読み方】
かふくはあざなえるなわのごとし
【意味】
幸福と不幸は、より合わせた縄のように絡み合い、互いに入れ替わりながら訪れるということ。何が災いとなり、何が幸せをもたらすかは簡単には分からないというたとえ。


【類義語】
・塞翁が馬(さいおうがうま)
・沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり(しずむせあればうかぶせあり)
「禍福は糾える縄の如し」の故事
「糾う」とは、何本かの糸や藁をより合わせて一本の縄にすることです。ほどけば別々になるものが、互いに絡み合いながら一本につながる姿を、幸福と不幸の関係に重ねた表現です。
この故事成語の重要な源の一つは、前漢の文人である賈誼(かぎ)が紀元前2世紀に作った『鵩鳥賦(ふくちょうのふ)』です。賈誼は若くして朝廷に仕えましたが、讒言(ざんげん:事実を曲げて人を悪く言うこと)によって都を離れ、長沙王の太傅(たいふ:王を教え補佐する役)となりました。
長沙に移って三年ほどたったころ、賈誼の住まいに鵩鳥(ふくちょう:ふくろうに似て、不吉と考えられた鳥)が飛び込み、座席の隅に止まりました。当時、この鳥が家に入ることは、主人の死や別れを告げる前触れと受け取られていました。
賈誼は、自分が都から遠ざけられたうえ、湿気の多い長沙では長く生きられないのではないかと悲しみました。そこで鵩鳥に問いかけ、鵩鳥が心の中で答える形を借りて、人の運命や世の中の変化を語る『鵩鳥賦』を作りました。
鵩鳥は答えの中で、万物は休むことなく変わり続けると語ります。そして、「禍は福の寄り添う所であり、福は禍の潜む所である」と述べ、喜びと悲しみ、吉と凶とは同じ場所に集まるものだと表しました。
続いて、強大であった呉が夫差(ふさ)の代に敗れたことや、会稽(かいけい)で追い詰められた越王句践(こうせん)が、のちに勢力を盛り返して覇者となったことが挙げられます。栄えていた者が滅び、敗れていた者が栄えるという逆転によって、運命の定まらなさを示しています。
さらに、李斯(りし)は秦で高い地位を得ながら、最後には重い刑を受け、傅説(ふえつ)は低い身分から殷の王に見いだされて宰相となったと述べます。成功の中に破滅が潜み、苦しい境遇の中から幸福が生まれる例です。
これらの例のあとに、「夫禍之與福兮、何異糾纆」とあります。「禍と福とは、より合わせた縄とどうして異なるだろうか」という意味で、不幸と幸福が互いに絡み合っていることを、縄の姿で表しています。
この一節は、『文選(もんぜん)』(南朝梁、6世紀前半成立、蕭統編)にも収められました。『文選』の注では、「糾」は二本を合わせた縄、「纆」は三本を合わせた縄とし、禍と福とが縄のように付き合い、表裏をなすことだと説いています。
一方、『史記(しき)』(前漢、紀元前91年ごろ成立、司馬遷著)の「南越尉佗列伝」にも、よく似た表現があります。南越を征討した将軍たちの成功と失敗を振り返り、「禍に因りて福を為す。成敗の転ずるは、譬えば糾える縄の若し」と結んでいます。
そのため、この故事成語の由来を賈誼の『鵩鳥賦』に求める見方と、『史記』の「南越尉佗列伝」に求める見方があります。どちらの文章も、禍福や成敗が縄のより目のように絡み合い、一方から他方へ転じることを表しています。
日本では、近い形の「吉凶は糾える縄の如し」が早くから使われました。『平治物語(へいじものがたり)』(1220年ごろ成立、鎌倉時代前期、作者未詳)には、「吉凶はまつはれる縄のごとし」とあり、良いことと悪いことが縄のように絡み合うという考えが表れています。
現在の形に近い古い用例は、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)』(1814~1842年・江戸時代後期)にあります。「禍福は糾る纏の如し」と記され、人の運命は自分の考えだけでは見通せないという文脈で使われています。
昭和期には、佐々木味津三の『右門捕物帖』(昭和4年)に、「人の世は吉凶禍福糾える縄のごときもの」という用例が現れます。こうして、幸福と不幸が交互に現れ、互いに転じ合うという現在の意味で広く定着しました。
「禍福は糾える縄の如し」は、災いの中にも幸福へ転じる可能性があり、幸福の中にも災いの種が潜んでいることを教えます。一時の出来事だけで人生の幸不幸を決めつけてはならないという戒めも込められています。
「禍福は糾える縄の如し」の使い方




「禍福は糾える縄の如し」の例文
- けがで大会に出られなかったが、後輩を指導する喜びを知り、禍福は糾える縄の如しだと実感した。
- 望んでいた学校には入れなかったものの、新しい学校で親友に出会い、禍福は糾える縄の如しと思った。
- 店の閉鎖という苦境から新しい商品が生まれた経緯は、まさに禍福は糾える縄の如しであった。
- 急な転勤を不運に思っていた父は、そこで生涯の恩師と出会い、禍福は糾える縄の如しだと語った。
- 事業の成功に安心して備えを怠れば、禍福は糾える縄の如しで、思わぬ失敗を招くこともある。
- 災難に落ち込む友人へ、祖母は禍福は糾える縄の如しだから先のことは分からないと励ました。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000~2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・司馬遷『史記』紀元前91年ごろ成立。
・蕭統編『文選』6世紀前半成立。
・『平治物語』1220年ごろ成立。
・曲亭馬琴『南総里見八犬伝』1814~1842年。























