【ことわざ】
勝って兜の緒を締めよ
【読み方】
かってかぶとのおをしめよ
【意味】
戦いに勝ったあとでも油断せず、気を引き締めて用心せよというたとえ。成功したあとに慢心しないよう戒める言葉。


【英語】
・Don’t let your guard down even after a victory.(勝利のあとでも油断してはいけない)
【類義語】
・油断大敵(ゆだんたいてき)
・油断はけがのもと(ゆだんはけがのもと)
・浅き川も深く渡れ(あさきかわもふかくわたれ)
「勝って兜の緒を締めよ」の語源・由来
「勝って兜の緒を締めよ」は、武士が戦いで用いた兜と、その兜を頭に結びつけるための緒をもとにしたことわざです。兜の緒を締めるとは、戦いの備えをゆるめず、気持ちを引き締めて用心することを表します。
「兜の緒を締める」という言い方そのものは、「勝って」が付く前から、戦いへの備えを表す言い回しとして使われていました。『平治物語(へいじものがたり)』(鎌倉時代前期までに成立か、作者不明)には、「かぶとの緒をしめてまちあかす」という用例があり、敵の攻撃に備えて夜を明かす場面で使われています。
この古い用例では、勝利のあとの戒めというより、危険が近いときに武装を整えて待つ意味が強く出ています。つまり、兜の緒を締めるという動作は、もともと実際の戦いの中で、油断せずに備える姿を具体的に示すものでした。
現在の形に近い言葉は、戦国時代の武将である北条氏綱が、子の氏康に残した遺訓と結びつけて伝えられています。北条氏綱は後北条氏の第2代で、父の早雲から家督を受け継ぎ、後北条氏の基礎を固めた人物です。
『北条氏綱公御書置』(1541年・戦国時代、北条氏綱作)は、天文十年五月二十一日に、氏綱が子の氏康へ書き残したものです。その中では、義を守ること、人を見限らず用いること、分限を守ること、倹約を守ることなど、大将としての心得が述べられています。
その最後の一条では、合戦で大きな勝利を得たあとに、おごる心が起こり、敵をあなどり、行いが乱れることを戒めています。さらに、そうした心によって滅亡した家は昔から多い、と述べ、勝利のあとにこそ慎むべきだと教えています。
この一条の末尾に、「勝て甲の緒をしめよ、といふ事忘れ給ふへからす」とあります。原文では「甲」の字が使われていますが、現在は「兜」と書く形で広く知られています。
この言葉が大切にしているのは、勝ったことそのものよりも、勝ったあとの心の持ち方です。勝利によって安心しすぎると、次の失敗を招きやすいため、むしろ勝った直後にこそ備えを固めなさい、という教えになっています。
明治時代には、東郷平八郎の『聯合艦隊解散之辞』(1905年)でも、この言葉が引かれました。日露戦争後の訓辞の末尾で「古人曰ク勝ツテ兜ノ緒ヲ締メヨト」と述べられ、一つの勝利に満足せず、ふだんの鍛錬を続けるべきだという教えとして用いられています。
このように、「兜の緒を締める」という実際の武装の動作から、戦国武将の戒め、さらに近代の訓辞を経て、「勝って兜の緒を締めよ」は広く使われることわざになりました。現在では、戦いだけでなく、試験や仕事、スポーツなどで成功したあとにも、油断せず次に備える言葉として使われます。
「勝って兜の緒を締めよ」の使い方




「勝って兜の緒を締めよ」の例文
- 大会で優勝したからこそ、勝って兜の緒を締めよの気持ちで次の試合に備えた。
- テストで満点を取ったあとも、勝って兜の緒を締めよと思い、復習を続けた。
- 新しい店の売り上げが好調でも、勝って兜の緒を締めよを忘れてはならない。
- 合格発表のあと、先生は勝って兜の緒を締めよと言って、入学後の準備を促した。
- 発表会が成功した翌日、委員会は勝って兜の緒を締めよの姿勢で反省点を話し合った。
- 契約がまとまったあとも、担当者は勝って兜の緒を締めよと考え、確認作業を丁寧に進めた。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館『デジタル大辞泉』小学館。
・杉山博・下山治久編『戦国遺文 後北条氏編 第1巻』東京堂出版、1989年。
・『平治物語』鎌倉時代前期までに成立か。
・東郷平八郎『聯合艦隊解散之辞』1905年。
・Linguee Dictionary、2026年。























