【ことわざ】
商人の嘘は神もお許し
【読み方】
あきんどのうそはかみもおゆるし
【意味】
商人が商売上の駆け引きでつく嘘は、やむを得ないものとして大目に見るということ。悪意のあるだましを正当化する意味ではない。


【英語】
・Business is business.(商売は商売として割り切る)
【類義語】
・嘘も方便(うそもほうべん)
・商人の空誓文(あきんどのそらせいもん)
【対義語】
・正直は一生の宝(しょうじきはいっしょうのたから)
「商人の嘘は神もお許し」の語源・由来
「商人の嘘は神もお許し」は、商人が取引で用いる言い回しや値段の駆け引きを、商いの現実に伴うものとして受け取る発想から生まれたことわざです。神まで持ち出して「お許し」と言うところに、商人の口上には本音と建前が入りやすいという世間の見方も重なっています。
ただし、このことわざは、人をだましてよいという教えではありません。売り込みの場で言い方を少し大きくしたり、相手の心を動かす口上を使ったりすることを、昔の商いの技の一つとして大目に見る表現です。
この発想の背景には、商売上の嘘を罪として意識し、それを神前で祓おうとする近世の風習がありました。旧暦十月二十日には、京都の商人や遊女が四条寺町東入の冠者殿(かんじゃでん)に参詣し、平素客をだました罪を免れるよう祈る行事があり、これを誓文払い(せいもんばらい)と呼びました。
誓文払いは、もとは商売上の嘘や駆け引きの罪を祓い、神罰を免れるよう願う行事でした。のちには京坂の商店で、罪滅ぼしのためと称して安売りをする行事にも広がりました。
冠者殿は、祇園社の末社であり、「誓文返しの神」として信仰されました。商売では、値段をめぐる駆け引きや客を引きつける言葉が避けにくい面があったため、商人たちはその罪を祓う場所として、冠者殿に結びつけて考えたのです。
古い用例としては、井原西鶴の『好色二代男(こうしょくにだいおとこ)』(1684年・江戸時代前期、井原西鶴著)に、「十月廿日は誓文払」という形が出てきます。これは、十月二十日の誓文払いの日には、商いが大事だから何も遠慮せずに買って楽しめ、という文脈で用いられています。
この用例から、江戸時代前期には、誓文払いが商いと結びつく年中行事としてすでに知られていたことが分かります。商人の嘘を祓う行事と商店の売り出しが結びついたところに、このことわざの土台となる商売観が表れています。
喜田川守貞の『守貞謾稿(もりさだまんこう)』(天保8年〜嘉永6年・江戸時代後期、喜田川守貞著)には、「十月二十日今日、京坂にて誓文払と云ふ。江戸にて、恵比寿講と云ふ」という記述があります。京坂では誓文払い、江戸では恵比寿講と呼ばれるように、地域によって行事の呼び方や受け止め方が異なっていました。
また、浄瑠璃『源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)』(1749年・江戸時代中期、並木千柳・三好松洛作)には、「うそと嘘とが出合たからは、いっそ誓文払に打まいて聞そふ」という用例があります。ここでは、誓文払いが「何もかも打ち明けること」という意味にも広がって使われています。
このように、「商人の嘘」と「神に祓ってもらう」という考えは、近世の商いと年中行事の中で結びついていました。「商人の嘘は神もお許し」は、その重い罪祓いの感覚を、より軽いことわざの形に変え、商売には多少の駆け引きがつきものだという意味を表すようになったと考えられます。
一方で、このことわざには、商人の自己弁護めいた響きもあります。神が本当に嘘を許すというより、商売の場では相手を引きつける言葉や値段の駆け引きが入りやすいという人間社会の現実を、少し皮肉をこめて言い表したものです。
そのため、現代で使うときも、欠陥を隠す、契約を破る、相手に損害を与えるといった不正を正当化する言葉としては用いません。軽い誇張や商売上の駆け引きを話題にするとき、半ば冗談めかして使うのがふさわしい表現です。
「商人の嘘は神もお許し」の使い方




「商人の嘘は神もお許し」の例文
- 市場の店主が少し大げさに果物をほめるのを、客は商人の嘘は神もお許しと笑って受け流した。
- 商人の嘘は神もお許しとはいえ、商品の傷を隠して売ることまでは許されない。
- 値段交渉で店員が仕入れの苦労を少し強調したため、父は商人の嘘は神もお許しというものだと苦笑した。
- 昔ながらの商店街では、威勢のよい売り文句を商人の嘘は神もお許しとして楽しむ客もいた。
- 商人の嘘は神もお許しを口実にして、事実と違う広告を出すのは本来の使い方から外れる。
- 祖母は、店先の調子のよい言葉を聞くたびに、商人の嘘は神もお許しということわざを思い出した。
主な参考文献
・三省堂編修所編『新明解故事ことわざ辞典 第二版』三省堂、2016年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・井原西鶴『好色二代男』1684年。
・喜田川守貞『守貞謾稿』天保8年〜嘉永6年。
・Merriam-Webster, 『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster.























