【ことわざ】
明日知らぬ世
【読み方】
あすしらぬよ
【意味】
今日が無事でも、明日のことは分からないということ。変わらず続くものはないという、この世の無常を表す。


【英語】
・this uncertain world.(先の定まらない世の中)
・here today, gone tomorrow.(今あるものもすぐに失われるほど、はかない)
【類義語】
・明日知らぬ身(あすしらぬみ)
・一寸先は闇(いっすんさきはやみ)
・明日の事を言えば鬼が笑う(あすのことをいえばおにがわらう)
・定めなき世(さだめなきよ)
【対義語】
・明日は明日の風が吹く(あしたはあしたのかぜがふく)
「明日知らぬ世」の語源・由来
「明日知らぬ世」は、「明日知らぬ」という古い言い方を土台にした表現です。「明日知らぬ」は、明日にもどうなるか分からない、近い将来が定まらない、という意味で使われます。特に古い用例では、人がいつ死ぬか分からないという、命のはかなさを表す言い方として現れます。
早い例として、『古今和歌集(こきんわかしゅう)』(905年に編纂命令、10世紀前半成立、紀貫之ほか撰)の哀傷歌に、紀貫之の「明日知らぬ我身」という形があります。この歌は、自分の身も明日どうなるか分からないと思いながら、それでも今日この時は亡くなった人のことが悲しい、という心を詠んだものです。「明日知らぬ」は、未来一般の不確かさというよりも、まず自分の命の不確かさに向けられた言葉でした。
その後、『源氏物語(げんじものがたり)』(11世紀初め、紫式部作)の「総角(あげまき)」にも、「明日知らぬ世」という形が出てきます。この場面では、病み衰えた大君が、自分の命や残される人々の行く末を思いながら語ります。「明日知らぬ世」とは、明日さえ分からないこの世という意味で、個人の身だけでなく、人の世全体のはかなさを包みこむ言い方になっています。
『源氏物語』のこの表現は、先に見た『古今和歌集』の「明日知らぬ我身」をふまえた言い回しとして理解できます。「我身」が自分の命に焦点を当てるのに対し、「世」は人の生きる世界や世の中そのものへと広がります。そのため、「明日知らぬ世」は、命のはかなさと世の移り変わりを合わせて表す、より広い無常の表現になったと考えられます。
また、近い形として「明日知らぬ身」も使われてきました。「身」は自分の命や境遇を強く指し、「世」は世の中や人生のあり方まで含みます。現在の「明日知らぬ世」は、今日が無事でも明日は分からない、永遠に変わらないものはない、という考えを短く示すことわざとして用いられます。
「明日知らぬ世」の使い方




「明日知らぬ世」の例文
- 明日知らぬ世だからこそ、家族に感謝の言葉を伝えておく。
- 明日知らぬ世を思えば、何気ない一日も大切に感じられる。
- 祖父の急な病をきっかけに、明日知らぬ世という言葉の重みを知った。
- 明日知らぬ世とはいえ、むやみに不安がるのではなく、今日できることを丁寧に行う。
- 災害の知らせを聞き、明日知らぬ世生きていることを改めて考えた。
- 明日知らぬ世を胸に、友人との約束を先延ばしにしなかった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・近藤いね子・高野フミ編集主幹『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・Christine Ammer, The American Heritage Dictionary of Idioms, Houghton Mifflin, 1997.
・紀貫之ほか撰『古今和歌集』905〜914年。
・紫式部『源氏物語』11世紀初め。























