【ことわざ】
鰯網で鯨捕る
【読み方】
いわしあみでくじらとる
【意味】
思いがけない幸運や、意外に大きな収穫を得ることのたとえ。


【英語】
・a windfall(思いがけず得た利益や幸運)
【類義語】
・鰯網へ鯛が掛かる(いわしあみへたいがかかる)
・兎の罠に狐がかかる(うさぎのわなにきつねがかかる)
「鰯網で鯨捕る」の語源・由来
「鰯網で鯨捕る」は、鰯を捕るための網に、思いがけず鯨がかかるという、ふつうなら考えにくい取り合わせから生まれたことわざです。「鰯網」は鰯を獲るために用いる網を指し、小さな魚をねらう道具であることが前提になっています。
「鯨」は、クジラ目に属する大型の哺乳類を指す言葉です。小魚である鰯と、海の大きな生き物である鯨を並べることで、ねらったものよりはるかに大きな収穫を得る驚きが、短い言い方の中にこめられています。
このことわざの基本形としては、「鰯網で鯨を捕る」という形が古くから用いられています。現在の見出しのように、助詞の「を」を省いた「鰯網で鯨捕る」も、同じ意味を表す言い方として使われています。
古い用例として重要なのは、『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』(1715年・江戸時代中期、近松門左衛門作)です。この作品は、全五段の時代物浄瑠璃(じょうるり)で、正徳5年十一月に大坂竹本座で初演され、中国明の再興をめざす和藤内の活躍を描いています。
『国性爺合戦』の九仙山の場面には、「思ひもよらぬひろひ物、いわし網で鯨を取るとは此のこと」とあります。思いもよらない拾い物をした、まさに鰯網で鯨を取るとはこのことだ、という意味で、予想を超える大きな収穫を表しています。
この用例で大切なのは、鰯網で本当に鯨を捕ったという記録ではなく、思いがけない大きな得を、海のたとえで表している点です。鰯を捕る小さな網に鯨がかかるという不釣り合いな絵が、聞き手に強い意外性を伝えています。
のちには、「鰯網で鯨の大功」という近い形も用いられました。「大功」は大きな手柄や成果を思わせる言葉で、『源頼家源実朝鎌倉三代記』(1781年・江戸時代後期初演)七段目には、「鰯網(イワシ アミ)で鯨(クジラ)の大功」という形が出てきます。
この「鯨の大功」という形は、「捕る」という動作よりも、思いがけず大きな成果を得たことを前面に出した言い方です。同じ発想が、場面に応じて「鯨を捕る」「鯨の大功」のように、少しずつ形を変えながら使われたことが分かります。
また、「鰯網へ鯛が掛かる」という近いことわざもあります。こちらも、鰯をねらう網に、より価値の高い魚がかかるという形で、予期しない幸運にあうことを表します。
同じ発想は、「兎の罠に狐がかかる」にも通じます。小さな獲物をねらった仕掛けに、それより大きな獲物や思いがけない獲物がかかるという点で、「鰯網で鯨捕る」とよく似ています。
このことわざは、努力すれば必ず大きな成功が得られる、という意味ではありません。小さなねらいや何気ないきっかけから、思いもよらない大きな収穫が得られたときに使う表現です。
さらに、鰯網で鯨が捕れるはずがないという発想から、あるはずのないことを表す場合にも用いられます。ただし、現在は主に、思いがけない幸運や大きな収穫を得るたとえとして用いるのが分かりやすい用法です。
「鰯網で鯨捕る」の使い方




「鰯網で鯨捕る」の例文
- 町内会が小さな寄付を呼びかけたところ、地元企業から大きな支援があり、鰯網で鯨捕る結果となった。
- 古い資料を探しに行っただけなのに、失われたと思われていた原稿まで見つかり、鰯網で鯨捕る思いだった。
- 小さな店の宣伝動画が偶然広まり、全国から注文が来たのは、鰯網で鯨捕るような出来事だった。
- 学校の自由研究で近所の池を調べたら、珍しい生き物の記録につながり、鰯網で鯨捕る成果になった。
- 友人に余った材料を分けてもらうだけのつもりが、道具一式まで譲られ、鰯網で鯨捕る幸運に恵まれた。
- 小さな相談から大きな協力者が現れたため、その企画は鰯網で鯨捕る形で一気に進んだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・二階堂清風編著『釣りと魚のことわざ辞典』東京堂出版、1998年。
・近松門左衛門『国性爺合戦』1715年。
・『源頼家源実朝鎌倉三代記』1781年。
・Merriam-Webster, Incorporated『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster, Incorporated.























