【ことわざ】
火事あとの釘拾い
【読み方】
かじあとのくぎひろい
【意味】
大きな損失や浪費をしたあとで、わずかな節約をしても、埋め合わせにならないことのたとえ。


【英語】
・be penny-wise and pound-foolish.(小さな金額には細かいのに、大きな金額の使い方には不注意である)
【類義語】
・焼け跡の釘拾い(やけあとのくぎひろい)
「火事あとの釘拾い」の語源・由来
「火事あとの釘拾い」のもとにあるのは、家や家財を焼いた火事のあと、その焼け跡に残った釘を一つずつ拾う情景です。家屋や家具を失った大きな損害に比べれば、拾い戻せる釘の価値はごくわずかです。
たとえ釘を何本か拾い集めても、焼けた家を元に戻すことはできず、損害の十分な埋め合わせにもなりません。この「失ったものは大きいのに、取り戻そうとするものは小さい」という釣り合わなさが、ことわざの核になっています。
「火事あと」という部分は、すでに大きな被害が起きてしまったあとの段階を表します。損失を防ぐべき時を過ぎてから、小さな倹約を始めるという順序にも、このことわざの厳しい教訓が込められています。
一方の「釘拾い」は、まったく何もしないことではありません。わずかな物でも取り戻そうとする行動ですが、火事の被害全体と比べれば、その効果はあまりにも小さいという対比を作っています。
実際に、火事のあとの片付けでは、灰の中から釘や金物などを拾い集めることがありました。火事のあと始末を表す「灰寄せ」という言葉にも、そのような作業の様子が伝わっています。
島崎藤村の『夜明け前(よあけまえ)』(昭和7〜10年、島崎藤村著)には、「灰寄せの人夫が集まって、釘や金物の類を拾った焼跡には」とあります。火事のあとに灰を片付け、残った金物を回収する仕事が、現実の暮らしの中にあったことを示す用例です。
したがって、このことわざは、釘を拾う行為そのものが絶対に無意味だと言うものではありません。焼け失った財産の大きさに対して、回収できる釘があまりにわずかなため、損失を補う手立てとしては釣り合わないことを表しています。
表記には、「火事後の釘拾い」という形もあります。「後」を「あとの」と読む点は同じで、「火事あとの釘拾い」と意味も読み方も変わりません。
また、「焼け跡の釘拾い」という言い方もあります。「火事あと」が被害の起きたあとの時を示すのに対し、「焼け跡」は釘を拾う場所を前面に出していますが、どちらも大きな損のあとで小さな節約をすることを表します。
このことわざが問題にするのは、節約すること自体ではありません。大きな支出を防ぐ工夫をせず、取り返しにくい損失を出してから、わずかな金額だけを惜しむような、順序と規模のかみ合わなさを戒めています。
現在では、家計だけでなく、行事の予算、会社の経費、工事や事業の費用などにも用います。多額の無駄をそのままにして、あとから小さな出費だけを削ろうとする場面を、「火事あとの釘拾い」と端的に表すことができます。
「火事あとの釘拾い」の使い方




「火事あとの釘拾い」の例文
- 遠足の景品に予算の大半を使ったあと、鉛筆一本の値段を惜しむのは火事あとの釘拾いだ。
- 高価な家具を衝動買いしてから電気代を数円ずつ惜しんでも、火事あとの釘拾いに近い。
- 会場費を十分に比べずに決めたあと、印刷代をわずかに削るだけでは火事あとの釘拾いに終わる。
- 不要な設備に多額を投じた会社が、文房具だけを厳しく節約するのは火事あとの釘拾いだ。
- 大規模な計画の浪費を放置したまま、わずかな管理費だけを削る政策は火事あとの釘拾いと批判された。
- 使わない道具を部費で大量に買ったあと、練習用紙を一枚ずつ惜しむのは火事あとの釘拾いだ。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』公益財団法人日本漢字能力検定協会、2014年。
・Merriam-Webster, Inc.『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster, Inc.
・島崎藤村『夜明け前』新潮社、1932〜1935年。























