【ことわざ】
食わせておいて扨と言い
【読み方】
くわせておいてさてといい
【意味】
ごちそうをして相手に恩を感じさせ、頼み事を断りにくくしてから、用件や要求を切り出すこと。


【英語】
・with strings attached.(条件や見返りが付いて)
【類義語】
・旨い物食わす人に油断すな(うまいものくわすひとにゆだんすな)
・馳走終わらば油断すな(ちそうおわらばゆだんすな)
「食わせておいて扨と言い」の語源・由来
「食わせておいて扨と言い」は、ごちそうをするところから頼み事を切り出すところまでを、行動の順序に沿って言い表したことわざです。食事を振る舞うことで相手の心をやわらげ、恩を感じて断りにくくなったところで、本題を持ち出す様子を表しています。
前半の「食わせて」は、動詞「食わせる」の形です。「食わせる」には、物を食べさせる、飲食させるという意味があります。このことわざでは、単に食べ物を与えるのではなく、酒や料理などをごちそうして、相手をもてなすことを指します。
「おいて」は、先にある行動を済ませ、そのあとで次の行動へ移ることを表します。そのため、「食わせておいて」という前半だけで、まず相手に十分なもてなしをしてから、別の目的へと話を進めるという順序が示されています。
後半の「扨」は「さて」と読みます。「扨」は国字で、「さて」を表す字の一つです。「さて」には、一つの話を終え、新しい話題へ移るときに使う「ところで」という意味があります。ごちそうが終わったところで「さて」と言い、本当に頼みたかった用件を持ち出す場面が、この一字によって鮮やかに表されています。
つまり、このことわざで問題となるのは、ごちそうそのものではありません。初めから頼み事があることを明かさず、先にもてなして相手に恩を負わせ、その気持ちを利用して、要求を受け入れさせようとするところに意味の中心があります。
「食わせて置いて扨と言い」と、「置いて」を漢字で書く形も用いられます。また、「扨」は現在ではあまり見慣れない字であるため、「食わせておいてさてと言い」と、ひらがなで表すこともできます。どの表記でも、「ごちそうのあとで『さて』と頼み事を始める」という組み立ては同じです。
よく似たことわざに、「旨い物食わす人に油断すな」があります。こちらは、やけに親切にもてなす人には何か下心があるかもしれないので、注意するよう戒める言葉です。「食わせておいて扨と言い」が頼みを持ち出す側のやり方を表すのに対し、「旨い物食わす人に油断すな」は、もてなしを受ける側に用心を促しています。
このように、「食わせておいて扨と言い」は、食事によって相手の歓心を買い、その恩を頼み事に利用する世渡りのやり方を、会話の一場面のように切り取った表現です。親切の裏に隠れた目的や、ごちそうを受けたために断りづらくなる人の心理を、簡潔に言い表しています。
「食わせておいて扨と言い」の使い方




「食わせておいて扨と言い」の例文
- 兄は私に好物のケーキを振る舞い、食わせておいて扨と言いとばかりに留守番を頼んだ。
- 食わせておいて扨と言いで頼み事をされると、素直にごちそうを喜べない。
- 取引先は豪華な夕食のあと、食わせておいて扨と言いのように契約条件を切り出した。
- 友人の突然のおごりは、食わせておいて扨と言いではないかと少し用心した。
- 町内会長は食わせておいて扨と言いを使わず、会食の前に協力してほしい内容を伝えた。
- 彼は食わせておいて扨と言いで人を動かそうとしたが、その頼みはきっぱり断られた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Bernardo Villasanz・新井藍子「スペインの諺辞典(29)」『福岡大学人文論叢』第38巻第2号、2006年。























