【ことわざ】
夕立は馬の背を分ける
【読み方】
ゆうだちはうまのせをわける
【意味】
夕立は、すぐ近くでも降る所と降らない所があるほど、雨の降る範囲が狭いというたとえ。


【英語】
・a very localized shower(ごく狭い範囲で降るにわか雨)
【類義語】
・馬の背を分ける(うまのせをわける)
・馬の背を越す(うまのせをこす)
・夏の雨は牛の背を分ける(なつのあめはうしのせをわける)
「夕立は馬の背を分ける」の語源・由来
「夕立は馬の背を分ける」は、夕立の降る範囲がたいへん狭いことを、馬の背の片側は雨にぬれ、もう片側はぬれないほどだとたとえたことわざです。実際の馬の背中ほどの狭さをそのまま示す言葉ではなく、すぐ近くでも雨の有無が分かれることを強く印象づける表現です。
「夕立」は、夏の午後によく起こるにわか雨を指します。短い時間でやむことが多い一方、雨量が多くなり、雷やひょうを伴うこともあります。
この降り方は、夏の強い日ざしによって雲が発達し、積乱雲となって通過するときに起こることが多いものです。積乱雲による雨は、急に強く降り、短時間に狭い範囲へ雨をもたらすことがあります。
つまり、このことわざは、昔の人が夕立の性質を生活の中で観察し、それを分かりやすい比喩にした表現です。遠くの山や隣の村では強く降っているのに、自分のいる場所では降らないというような経験が、言葉の背景にあります。
古い用例としては、俳諧撰集『鷹筑波集』(1642年刊・江戸時代前期、西武編、1638年貞徳序)が重要です。この書物は、松永貞徳が長く批点を施した発句や付句を西武が編集したもので、貞門の初期俳諧を伝える資料です。
その巻四には、「あせもながるる水もながるる 夕立はせめ行馬のせを分(ワケ)て〈茂昭〉」という句が出てきます。汗も雨水も流れるほどの夕立が、追って行く馬の背を分けるように降る、という趣をもった表現です。
この用例では、夕立の激しさと、降る場所の狭さが重ねて表されています。馬の背という小さな境目を持ち出すことで、雨の降る所と降らない所が、ほんの近い距離でも分かれることを生き生きと示しています。
後には、「馬の背を分ける」だけでも、夕立などが局地的に降ることを表す言い方として使われるようになりました。この形では、夕立に限らず、ある地域では降っているのに、すぐ近くは晴れている様子を言います。
また、「馬の背を越す」という形も同じ発想をもつ言い方です。歌舞伎『袖簿播州廻』(1779年・江戸時代中期)には、「誠に馬の背を越すといふが、ここらは降ったさうな」という用例があり、近い場所で雨の降り方が違うことを表しています。
類義の表現に「夏の雨は牛の背を分ける」もあります。馬を牛に替えても、夏の雨が局地的に降るという考えは同じで、背中の片側だけがぬれるほどだという比喩によって、雨の範囲の狭さを表しています。
現在では、天気の話だけでなく、同じ市内や同じ学校の近くでも、場所によって雨の降り方が大きく違うときに使います。自然の細かな変化を、馬の背という身近で目に浮かびやすいものにたとえたところに、このことわざの分かりやすさがあります。
「夕立は馬の背を分ける」の使い方




「夕立は馬の背を分ける」の例文
- 夕立は馬の背を分けるというように、駅では大雨だったのに家の前は乾いていた。
- 同じ町内でも雨の強さが違い、夕立は馬の背を分けるという言葉を思い出した。
- 友人の家では雷雨だったが、こちらは晴れていて、夕立は馬の背を分けるとはこのことだ。
- 夕立は馬の背を分けるので、近くで雨が降っていなくても油断できない。
- 山道を進むと、夕立は馬の背を分けるように、峠の向こうだけが激しくぬれていた。
- 夏祭りの日、会場の東側だけ雨が降り、夕立は馬の背を分けるということわざがぴったりだった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・西武編『鷹筑波集』1642年。
・気象庁『天気予報等で用いる用語 降水』。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』。
・Dictionary.com Unabridged, Random House.























