【ことわざ】
金持ちと灰吹きは溜まるほど汚い
【読み方】
かねもちとはいふきはたまるほどきたない
【意味】
金持ちは、財産が増えるほど欲深くなり、金を出し惜しみするようになるというたとえ。


【類義語】
・金と塵は積もるほど汚い(かねとちりはつもるほどきたない)
・掃き溜めと金持ちは溜まるほど汚い(はきだめとかねもちはたまるほどきたない)
「金持ちと灰吹きは溜まるほど汚い」の語源・由来
「灰吹き(はいふき)」は、煙管(きせる)でたばこを吸ったあと、灰などを落とす筒形の容器です。江戸時代の煙草盆(たばこぼん)には、火を保つ火入れやたばこ入れ、煙管とともに、灰を受ける容器が備えられ、竹筒が使われることもありました。
一服するたびに灰が中へ落ちるため、手入れをしなければ、灰吹きは中身がたまるにつれて汚れていきます。この身近な道具の様子に、財産が増えるほど金を手放すのが惜しくなり、さらに欲深くなる人の姿を重ねたのが、このことわざです。
ここでの「溜まる」は、灰吹きに灰がたまることと、金持ちのもとに財産がたまることの両方に掛かっています。また、「汚い」も、灰吹きが物理的に汚れることと、人が金を惜しんで意地汚くなることを重ねています。
古い用例の一つは、歌舞伎『碁風土記魁升形(ごふどうき せんてのじょうせき)』(1871年・明治時代初め、二代目河竹新七〔のちの河竹黙阿弥〕作)にあります。この作品は、明治4年1月に東京の市村座で初演されました。
その二幕には、「金持と灰吹は溜るほど汚く、段々欲が張って来るのだらう」とあります。財産がたまるにつれて、ますます欲深くなってきたのだろう、という意味です。
この作品がことわざの発祥そのものとまでは言い切れませんが、「金持と灰吹」という整った比較の形で使われています。そのため、少なくとも明治時代の初めには、金持ちの強欲やけちをからかう言い回しとして通じていたと考えられます。
その後、泉鏡花の小説『黒百合(くろゆり)』(明治32年、泉鏡花著)にも、少し形を変えた用例が出てきます。お兼は、滝太郎の盗んだ時計や金、宝石などが洞穴(ほらあな)に積み上げられた光景を見て、「慾の固だね。金と灰吹は溜るほど汚い」と言います。
この用例では、「金持ち」ではなく「金」となっていますが、財物をため込むほど欲が深まり、その姿が醜くなるという皮肉は共通しています。古い本文には、「灰吹」「溜る」と送り仮名を少なく書く形もあり、現在は「灰吹き」「溜まる」と書く形が広く使われています。
また、「灰吹きと金持ちは溜まるほど汚い」のように、比べる二つの順序を入れ替えた形もあります。いずれも、富そのものを悪いものとするのではなく、財産が増すほど欲深くなり、人への思いやりや気前のよさを失う姿を戒めることわざです。
「金持ちと灰吹きは溜まるほど汚い」の使い方




「金持ちと灰吹きは溜まるほど汚い」の例文
- 財産が増えるにつれて寄付を惜しむようになった地主は、金持ちと灰吹きは溜まるほど汚いと村人に皮肉られた。
- 店を何軒も持つ社長が従業員のわずかな手当まで削ったため、金持ちと灰吹きは溜まるほど汚いと批判された。
- 祖父は、貯金が増えるほど小銭に執着する親類を見て、金持ちと灰吹きは溜まるほど汚いとため息をついた。
- 物語の地主は土地を広げても満足せず、金持ちと灰吹きは溜まるほど汚いを地で行く人物として描かれている。
- 町の有力者が祭りへの寄付を出し惜しんだので、金持ちと灰吹きは溜まるほど汚いという皮肉が広まった。
- 取引で利益を重ねるほど相手に厳しくなった商人は、金持ちと灰吹きは溜まるほど汚いと陰で言われた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・野島寿三郎編『歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典』日外アソシエーツ、1990年。
・河竹黙阿弥著、河竹糸女補、河竹繁俊編『黙阿弥全集 第廿二卷』春陽堂、1926年。
・泉鏡花『黒百合』1899年。























