【故事成語】
錦上に花を添える
【読み方】
きんじょうにはなをそえる
【意味】
美しいものに、さらに美しいものを加えること。よいことの上に、さらによいことが重なることのたとえ。


【英語】
・the icing on the cake.(すでによい状況をさらによくするもの)
【類義語】
・鬼に金棒(おににかなぼう)
【対義語】
・泣き面に蜂(なきつらにはち)
「錦上に花を添える」の故事
「錦(にしき)」は、さまざまな色糸を用いて美しい模様を織り出した織物です。その錦の上へさらに花を添えれば、もともと華やかなものがいっそう美しくなることから、よいものにさらによいものを加えるたとえとなりました。
この表現に近い古い用例は、『祖堂集(そどうしゅう)』(五代十国時代の南唐、952年、静・筠編)に出てきます。『祖堂集』は、中国の禅僧たちの言葉や問答を集めた、二十巻の禅宗史書です。
その巻九では、鄭十三娘という少女が師と禅問答を交わし、師に叱られたあと、「今日便是錦上更添花」と答えています。「今日は錦の上に、さらに花を添えたようなものです」という言い方で、王安石の詩より前に、ほぼ同じ比喩が使われていたことが分かります。
日本語の「錦上に花を添える」の典拠として広く挙げられるのは、北宋の王安石が作った詩「即事」です。王安石は1021年から1086年に生きた政治家・文学者で、宰相として政治改革を進める一方、詩文にも優れた人物でした。
「即事」は七言律詩で、『臨川先生文集(りんせんせいぶんしゅう)』巻二十二に収められています。その中には、「嘉招欲覆盃中淥、麗唱仍添錦上花」とあります。
この一節は、親しい人から招かれ、杯のおいしい酒を味わうだけでも喜ばしいのに、さらに美しい歌声まで加わったことを表しています。その喜びを、華やかな錦の上へもう一輪の花を添えたようだとたたえたのです。
王安石の詩では、「麗唱」が「錦上の花」を「添える」という文の形になっています。ここから、「錦上に花を添える」という訓読の形や「錦上添花」という四字の形が、よいものをいっそうよくする表現として用いられるようになりました。
北宋の詩人・書家である黄庭堅の「了了菴頌(りょうりょうあんのしょう)」には、「且圖錦上添花」とあります。新しくできた庵がすでに立派であり、自分の頌を加えることは、その錦にさらに花を添えるようなものだと表した一節です。
後代には、『水滸伝(すいこでん)』第十九回にも「似錦上添花」と出てきます。すでに多くの豪傑がいる梁山泊へ、さらに優れた人々が加わった喜びを表しており、このころには「錦上添花」が、よい上にさらによいことが重なる意味で定着していました。
日本では、室町時代中期の古い国語辞書『文明本節用集(ぶんめいぼんせつようしゅう)』に、この表現が採られています。同書は、書中に「文明六年」、すなわち1474年の年記をもつ、現存する節用集の中でも古い部類に属する写本です。
近松門左衛門の浄瑠璃『栬狩剣本地(もみじがりつるぎのほんじ)』(1714年・江戸時代中期)には、「櫨・楓・蔦・紅葉〈略〉錦上(キンシャウ)に花をしくとは、かやうのことをや申つらん」とあります。色鮮やかな紅葉の美しさを、「錦上に花を敷く」という形でたたえています。
大正10年には、矢田挿雲の『江戸から東京へ』に「錦上花を添うる趣」と出てきます。「敷く」「添う」「添える」などの形を経ながら、現在では「錦上に花を添える」が一般的な言い方として定着しています。
この故事成語は、単に美しい飾りを付けることだけを表すのではありません。すでに価値のある作品や功績、喜ばしい出来事に、さらに優れたものや喜びが加わり、いっそう立派になることを表します。
「錦上に花を添える」の使い方




「錦上に花を添える」の例文
- 大会で優勝したうえに最優秀選手にも選ばれ、錦上に花を添える結果となった。
- 美しい庭園に桜が満開となり、錦上に花を添える眺めになった。
- 記念式典への恩師の出席が、錦上に花を添えるものとなった。
- 新商品の好調な売れ行きに海外からの賞も加わり、錦上に花を添える知らせとなった。
- 主演俳優の受賞は、作品の大成功に錦上に花を添える出来事だった。
- 長年の研究が完成したうえに後進から感謝状も贈られ、錦上に花を添える喜びとなった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・静・筠編『祖堂集』952年成立。
・王安石『臨川先生文集』。
・黄庭堅『豫章黄先生文集』。
・近松門左衛門『栬狩剣本地』1714年。























