【ことわざ】
商い上手の仕入れ下手
【読み方】
あきないじょうずのしいれべた
【意味】
客あしらいが上手で品物はよく売れても、仕入れがまずいために利益が出ないこと。売る力だけでは商売は成り立たないという戒め。


【英語】
・You make money when you buy, not when you sell.(利益は売る段階ではなく、買う段階で大きく決まる。)
・To sell right, you must first buy right.(うまく売るには、まずうまく仕入れなければならない。)
【類義語】
・骨折り損の草臥れ儲け(ほねおりぞんのくたびれもうけ)
・草臥れ儲け(くたびれもうけ)
【対義語】
・濡れ手で粟(ぬれてであわ)
・海老で鯛を釣る(えびでたいをつる)
・大取するより小取をせよ(おおどりするよりことりをせよ)
「商い上手の仕入れ下手」の語源・由来
このことわざは、売る力と仕入れる力とを並べて、商売の実情をするどく言い表したものです。前半の「商い上手」は販売のうまさ、後半の「仕入れ下手」は買い付けのまずさを指し、よく売れても利益が出ないという商人の悩みを一息にまとめています。
まず「商い」は、売り買いすること、つまり商売そのものを表す古くからのことばです。売上という意味でも使われてきたので、このことわざの「商い」には、店先のにぎわいだけでなく、お金の出入りまで含んだ重みがあります。
「商上手」という語も、かなり古くから使われていました。1679年(延宝7年・江戸時代前期)には、すでに「商ひ上手」という形が俳諧の中に出てきますから、売ることのうまさをほめる言い方そのものは、江戸時代の早い時期から人びとの耳になじんでいたと分かります。
一方、「仕入」ということばも古い商いの現場に根づいた語です。1688年(貞享5年・江戸時代前期)の浮世草子には、荷物を「仕入」れるという用法が出てきますし、1692年(元禄5年・江戸時代前期)には、商売のしたくや元手にかかわる文脈でも使われています。1730年(享保15年・江戸時代中期)には、「愛相は仕入の外の一元手」と書かれ、愛想のよさまで商売の元手の一つとして数える感覚も見えてきます。
この流れを見ると、江戸時代の商いでは、品物をどう見せるかだけでなく、何をどう買い入れるかがすでに大事な問題だったことが伝わってきます。だからこそ、「売るのはうまいのに、仕入れで損をしてしまう」という見方が、ことわざになるだけの重みを持ったのでしょう。
商売をめぐることわざには、同じ考え方を別の角度から語るものもあります。「商い三年」は、利益が出るまでには時間がかかるから辛抱せよという教えです。また、「商いは本にあり」は、元手の大小が商売の勝ち負けを左右するという教えです。どちらも、売れたかどうかだけで商売を判断しない姿勢を示しています。
さらに、「商いは門門」は、客をよく見て、その人に合った品物を売るのがこつだという意味です。こちらは売り方の知恵を説くことばですが、「商い上手の仕入れ下手」は、それだけでは足りないと教えます。客に合わせて上手に売れても、仕入れの段階で失敗すれば、商売全体としては苦しくなるからです。
このことわざに、特定の一つの故事が付いているわけではありません。むしろ、江戸時代から積み重ねられてきた商人の経験が、「上手」と「下手」を対にして分かりやすく言い表した教えと考えると、ことばの性格に合っています。
今の形のはっきりした初出を、一つの作品だけにきっぱり結びつけて語るのはむずかしいことばです。けれども、商い・商上手・仕入といった土台になる語が江戸時代にはしっかり使われ、商売の心得を語ることわざも多く広まっていたので、このことわざもそうした商人社会のことばの中で育ったと考えるのが無理のない見方です。
このことわざのいちばん大事な点は、にぎわいと利益は同じではない、と教えるところにあります。お客が多い、品物がよく動く、接客がうまいという見た目のよさだけでは、商売の成功は決まりません。原価、仕入れ値、準備のしかたまで見なければ、本当の成否は分からないのです。
そのため、現代でもこのことわざは、店の売買だけに限らず、見かけは順調でも土台の組み立てがまずく、結果として利益や成果が残らない場面を言うのに向いています。売る前の判断を軽く見てはいけないという、商売のきびしくも実際的な知恵が、この短いことばには込められています。
「商い上手の仕入れ下手」の使い方




「商い上手の仕入れ下手」の例文
- 学園祭の焼き菓子はよく売れたが、材料を急いで高値で買ったため、商い上手の仕入れ下手に終わった。
- 注文は多いのに利益が残らない店を見て、父は商い上手の仕入れ下手だと言った。
- 接客の評判がよくても、仕入れ値が高すぎれば商い上手の仕入れ下手になる。
- フリーマーケットで昼前に品物を売り切っても、仕入れ代と交通費がかさめば商い上手の仕入れ下手である。
- 契約は次々取れたのに外注費が高すぎて、その仕事は商い上手の仕入れ下手となった。
- 見かけの売上だけを喜んで原価を見落とすと、商い上手の仕入れ下手になりやすい。























