【ことわざ】
秋の稲妻は千石増す
【読み方】
あきのいなずまはせんごくます
【意味】
秋に走る稲妻は、稲の実りを豊かにし、米の収穫を大いに増やすしるしだという言い伝え。


「秋の稲妻は千石増す」の語源・由来
「秋の稲妻は千石増す」は、秋の空に稲妻が光ると、田の稲がよく実り、米の収穫が増えるという言い伝えです。このことわざの土台には、雷の光と稲の実りとを結びつけて受け止めてきた、稲作の暮らしがあります。
言葉の中心にある「稲妻」は、もとは「稲の夫(つま)」という意味をもつ表現です。昔の人々は、雷の光が稲の穂に働きかけて実らせるものと考え、稲に実りをもたらす相手を「つま」ととらえました。
この発想は、ことわざの形が定着するよりも早く、文学の中の「いなづま」に表れています。『古今和歌集(こきんわかしゅう)』(905〜914年成立、平安時代前期、紀貫之ら撰)には、「あきのたのほのうへをてらすいなづまの光」と詠む歌があります。
この歌は、秋の田の稲穂を照らす稲妻の光を、恋しい人を思う短い間の心の動きに重ねたものです。ことわざそのものではありませんが、平安時代の初めには、稲妻が秋の田や稲穂と結びつくものとして詠まれていたことが分かります。
『蜻蛉日記(かげろうにっき)』(974年以後まもなく成立か、平安時代中期、藤原道綱母著)中巻には、「いなづまのひかりだに来ぬ屋がくれは軒ばの苗もものおもふらし」とあります。軒の陰で育つ苗に、訪れてくれない夫を待つ自分の思いを重ねた歌です。
この歌で「いなづま」が夫の訪れを思わせる表現となるのは、稲妻を稲の実りに関わる「つま」と見る考えが背景にあるからです。稲妻と稲の成長との結びつきは、古くから人々の心に根づき、和歌のたとえにも用いられていました。
ことわざの後半にある「千石(せんごく)」は、一石(こく)の千倍で、およそ百八十キロリットルに当たります。ここでの「千石増す」は、収穫量を正確に予告する数字ではなく、稲妻が現れると非常に豊かな実りが期待できるという思いを、大きな量によって力強く表した言い方です。
このように、「秋の稲妻は千石増す」は、稲妻を稲の実りに結びつける古い考えと、豊作への願いとを、一つの短い言葉にまとめたことわざです。秋の田を見守る人々にとって、稲妻は恐ろしい光であるだけでなく、実りを待つ心を明るくするしるしでもありました。
後の用例には、「秋の稲妻、千石増す」のように、助詞の「は」を置かない形もあります。平成8年(1996年)に記された用例でも、この言葉は、稲光の多い暑い夏や残暑の続く年は稲がよく育ち、豊作につながるという内容で使われています。
なお、「稲妻」の現在の表記は「いなずま」が本則ですが、語の成り立ちに沿う「いなづま」と書くことも認められています。古い歌に「いなづま」と書かれ、現在のことわざを「いなずま」と読む中にも、稲と「つま」との古い結びつきは残っています。
「秋の稲妻は千石増す」は、秋の稲光を見て、豊かな収穫を願った人々の暮らしから生まれた言葉です。「千石」という大きな響きには、黄金色の稲穂が実る日を待つ、明るい期待が込められています。
「秋の稲妻は千石増す」の使い方




「秋の稲妻は千石増す」の例文
- 稲穂が色づくころ、祖父は秋の稲妻は千石増すと言って、空の光をうれしそうに見上げた。
- 郷土学習の発表で、私は秋の稲妻は千石増すという言い伝えと昔の稲作の関わりを紹介した。
- 夜の田の向こうに稲光が走ると、母は秋の稲妻は千石増すということわざを思い出した。
- 収穫を待つ農家の願いは、秋の稲妻は千石増すという言葉にも表れている。
- 地域の秋祭りでは、秋の稲妻は千石増すと記した札が、稲穂の写真のそばに飾られた。
- 少年は、秋の稲妻は千石増すの意味を知り、光る空と実った稲穂を結ぶ昔の考えに心をひかれた。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・『古今和歌集』905〜914年成立。
・藤原道綱母『蜻蛉日記』974年以後まもなく成立か。























