【故事成語】
悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らず
【読み方】
あくいあくしょくをはずるものはいまだともにはかるにたらず
【意味】
粗末な衣服や食事を恥じるようでは、まだ志や道理をともに語り合える段階ではないこと。外見やぜいたくへの執着が、学びや人格の未熟さを表すという戒め。


【英語】
・A scholar who is ashamed of shabby clothes and coarse food is not fit to be discoursed with.(志を持ちながら粗末な衣食を恥じる者は、ともに語るに値しない)
・One who is ashamed of poor clothes and plain food is not fit for serious discussion.(粗末な衣食を恥じる人とは、大切なことを論じられない)
【類義語】
・箪食瓢飲(たんしひょういん)
・一簞の食、一瓢の飲(いったんのし、いっぴょうのいん)
・粗衣粗食(そいそしょく)
【対義語】
・衣食足りて礼節を知る(いしょくたりてれいせつをしる)
・倉廩満ちて礼節を知る(そうりんみちてれいせつをしる)
「悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らず」の故事
この故事成語は、孔子の言行を伝える『論語』里仁第四の一章から来ています。もとの文は、「士、道に志して」という言葉から始まる一続きの章句です。
いま広く知られている「悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らず」は、その後半を取り出した言い方です。日本語では、この後半だけでも一つの教えとして受け取られることがあります。
ここでいう「悪衣悪食」は、ぼろぼろの服やまずい食事というだけではなく、粗末な衣服や質素な食事を指します。「与に議る」は、ともに大切なことを論じ合う、という意味です。
つまり孔子は、学びや人の道を求めると口では言いながら、着る物や食べる物の見ばえに心を乱す人は、まだ深い話の相手にはならないと言ったのです。原文の英訳でも、志を持つ人が粗末な衣食を恥じるなら「語り合うにふさわしくない」とされています。
この章句の大事なところは、貧しさそのものを立派だとほめているわけではない、という点です。問題にされているのは、質素な衣食を人に笑われるのではないかと気にし、他人より見劣りすることを恥じる心の向きです。
岡山大学の日本語訳付きの研究資料でも、ここは「人に笑われるのを恐れる」「人より劣ることを恥じる」心があるため、ともに語るに足りないと説明されています。見た目の貧しさそのものより、外からの評価に引っぱられる態度が戒めの中心なのです。
そのため、この故事成語は、ぜいたくを禁じるだけの言葉ではありません。志を立てるなら、まず心の置きどころを正し、体裁よりも学びや道義を先にせよ、という厳しい教えとして読むのが自然です。
日本では、「悪衣」という言葉も「悪食」という言葉も、室町中期の『文明本節用集』に早くから確かめられます。中国古典の章句が、語の形とともに日本語の世界へ入り、長く読み継がれてきたことがうかがえます。
また、『論語』里仁第四のこの章は、近代以後の学校教材でも取り上げられてきました。そうした積み重ねもあって、この長い章句は、後半だけでも意味が通じる教訓として覚えられやすくなりました。
よく似た別の言葉に、「衣食足りて礼節を知る」があります。こちらは、生活が安定してこそ礼節に心を向ける余裕が生まれるという考えで、社会の条件を語る言葉であり、志ある者の心構えを問うこの故事成語とは立っている場所が異なります。
ですから結論としては、見かけの貧しさを恥じる心が強い人は、まだ志を語る入口に立てていない、ということになります。荒い暮らしをすすめる言葉ではなく、何を本当に大事にするかを問い直すための、引き締まった教えとして受け取りたい故事成語です。
「悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らず」の使い方




「悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らず」の例文
- 古い制服を気にして学級委員の話し合いを避けるのは、悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らずという教えに当たる。
- 質素な弁当を恥じて遠足の係の相談に加わらない姿を見て、悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らずという言葉を思い出した。
- 家計が苦しい時期に古い服を恥じて家族の将来の話から逃げるのでは、悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らずと言われてもしかたがない。
- 地域の祭りを立て直す会合で、見た目の立派さばかりを気にする者には、悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らずという批評が向けられよう。
- 起業したばかりで質素な昼食を恥じ、事業の中身より体裁を優先するなら、悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らずという戒めが重く響く。
- 社会のための活動を語りながら、古い靴や地味な服装を気にして一歩を引く態度は、悪衣悪食を恥ずる者は、未だ与に議るに足らずそのものである。























