【ことわざ】
悪女の賢者ぶり
【読み方】
あくじょのけんじゃぶり
【意味】
心の悪い女が、うわべだけ賢い人や善い人のようによそおうこと。


【英語】
・a wolf in sheep’s clothing(善人をよそおって悪意を隠す人)。
・sanctimonious(うわべだけ道徳的・敬虔そうに見せる)。
・holier-than-thou(自分だけが道徳的に立派だという顔をする)。
【類義語】
・餓鬼の断食(がきのだんじき)。
・乞食の断食(こじきのだんじき)。
【対義語】
・正直の頭に神宿る(しょうじきのこうべにかみやどる)。
・正直は一生の宝(しょうじきはいっしょうのたから)。
・実るほど頭を垂れる稲穂かな(みのるほどこうべをたれるいなほかな)。
「悪女の賢者ぶり」の語源・由来
このことわざは、「悪女」と「賢者ぶり」という二つの部分からできています。「悪女」は心の悪い女をいい、「賢者ぶり」は賢者らしく見せかけてふるまうことをいう言い方です。
そのため、言葉の形だけ見ても、内心はよくないのに、外では思慮深く立派な人のようによそおう姿を表したものだと分かります。はじめから、ほめるためではなく、皮肉や非難をこめた言い方でした。
古い用例としてよく知られているのは、1627年(寛永4年・江戸時代前期)刊の仮名草子『長者教(ちょうじゃきょう)』です。『長者教』は、町人が富を築く心得を説く教訓的な読み物として伝わっています。
その『長者教』の中で、この言い方は「乞食の断食」とならべて語られます。ここでは、ほんとうはそうではないのに、もっともらしい顔をして体裁をつくろう様子を、きびしく皮肉っていることが読み取れます。
この並べ方が大切なのは、「悪女の賢者ぶり」が、ただ賢そうに見えるというだけの言葉ではないからです。早い時代から、外見と中身の食い違いをあざける調子をはっきり持っていたことが分かります。
また、「賢者ぶり」という部分そのものは、1633年(寛永10年・江戸時代前期)の俳諧集『犬子集(えのこしゅう)』にも確かめられます。つまり、「賢者らしくふるまう」という言い方自体が、かなり早い時期から通じる表現だったのです。
そのため、「悪女の賢者ぶり」は、すでに世の中で使われていた「賢者ぶり」という言い方に、「悪女」という語を結びつけて、皮肉をいっそう強くした形だと考えるのが自然です。一つの事件から急に生まれたというより、当時の人が分かりやすく感じる言い回しとして育ったのでしょう。
さらに、1658年から1661年ごろ(万治年間・江戸時代前期)に成立した浅井了意(あさいりょうい)の『東海道名所記(とうかいどうめいしょき)』には、「乞食の断食、悪女の賢女ぶり」という近い言い方が出てきます。ここでは「賢者ぶり」ではなく「賢女ぶり」ですが、うわべを取りつくろう女をからかう点は同じです。
こうした例から分かるのは、このことわざが江戸時代の早いころから、少し形をゆらしつつ広まっていたということです。今よく知られる形は「悪女の賢者ぶり」ですが、近い表現が並んで使われていた時期もあったようです。
なお、このことわざの「賢者」は、ただ物知りというだけではありません。道理が分かり、徳のある人という意味合いを持つので、このことわざが批判しているのは、単なる知ったかぶりではなく、善人ぶること、立派ぶることまで含んだ見せかけです。
だから、現代のことばで言いかえるなら、内心は打算的なのに、人前では親切で分別のある人のように見せる態度を指すことになります。古い言い回しですが、見た目の善さだけでは人を判断できないという教訓を、今でもはっきり伝えることわざです。
結局、このことわざの由来は、特定の一人の物語に結びつくというより、江戸初期の文献に残る皮肉な言い回しの中で形づくられ、類句と結びつきながら定着したと考えられます。古い文献の段階から、すでに「見せかけの徳」を笑う意味で使われていたことが、このことわざのいちばん大事な出発点です。
「悪女の賢者ぶり」の使い方




「悪女の賢者ぶり」の例文
- 先生は、昔話の継母が人前では親切を装い、陰では子どもを苦しめる場面を悪女の賢者ぶりの例として取り上げた。
- 客の前では思いやり深い女主人を演じ、裏では奉公人に責任を押しつける姿は、まさに悪女の賢者ぶりである。
- 友人は、小説の登場人物が涙ながらに反省を語りつつ、裏で人を陥れていたので、悪女の賢者ぶりだと評した。
- 祭りの世話を進んで引き受ける顔をしながら、自分の評判だけを上げようとする女の振る舞いに、悪女の賢者ぶりということばが浮かんだ。
- ある女社長が、取引先には温厚さを見せ、社内では部下の手柄を奪っていたという話は、悪女の賢者ぶりを思わせる。
- 弱い立場の人を守ると公に語りながら、裏ではその人たちを利用して名声を集めるなら、悪女の賢者ぶりと受け取られても仕方がない。























