【ことわざ】
悪女は鏡を疎む
【読み方】
あくじょはかがみをうとむ
【意味】
自分の欠点や弱みを直視するのを嫌がることのたとえ。容姿のすぐれない女性が鏡を見るのを嫌がるという見立てから、人が自分の欠点に触れられることを避ける心理をいう。


【英語】
・avoid facing the facts.(都合の悪い事実を直視しない)
・The truth hurts.(真実を知ることはつらい)
【類義語】
・悪女は鏡を恐る(あくじょはかがみをおそる)
・耳が痛い(みみがいたい)
・忠言耳に逆らう(ちゅうげんみみにさからう)
【対義語】
・我が身の事は人に問え(わがみのことはひとにとえ)
・人のふり見て我がふり直せ(ひとのふりみてわがふりなおせ)
「悪女は鏡を疎む」の語源・由来
「悪女は鏡を疎む」は、容姿に自信を持ちにくい女性が、ありのままの姿を映す鏡を嫌がるという見立てから生まれたことわざです。そこから、自分の欠点や弱点を見せつけるものを人は避けたがる、という意味へ広がりました。
ここでいう「悪女」は、現在よく聞く「性格の悪い女性」や「人を惑わせる女性」という意味ではありません。このことわざでは、古い意味での「容貌のすぐれない女性」を指します。
「悪女」という言葉には、容貌の醜い女性、心の悪い女性、男性を惑わせる女性という複数の意味があります。古い用例としては、『曾我物語』(南北朝ごろ成立)の中に、容貌について述べる意味で「あく女」という形が出てきます。
このことわざでは、その古い容貌の意味が土台になっています。つまり、「悪女」は道徳的に悪い人を責める言葉ではなく、鏡を見ることを避けるという比喩を作るための古い語感を残した言葉です。
「鏡」は、人の姿や物の形を映し見る道具を指します。『古事記』(712年・奈良時代)には「加賀美」の形が出てきており、鏡は古くから人の姿を映す道具であるとともに、祭具としても大切に扱われてきました。
鏡は、見たい姿だけでなく、見たくない姿までも映します。その性質が、このことわざの比喩を支えています。自分の欠点を映すものを避けたい気持ちが、「鏡を疎む」という言い方に重ねられているのです。
「疎む」は、いやだと思う、嫌って遠ざける、という意味の言葉です。『源氏物語』(1001〜1014年ごろ成立、平安時代中期、紫式部著)にも「疎む」と関わる用例があり、古くから心が離れる、嫌に思うという意味で使われてきました。
また、『宇津保物語』(970〜999年ごろ成立、平安時代中期)には「おぼしうとまざらん」という形が出てきます。これは、うとましく思う、心が離れるという意味につながる表現で、「疎む」が人や物事を心理的に遠ざける言葉として古くから働いていたことを示します。
このように、「悪女」「鏡」「疎む」は、それぞれ古い日本語の中で意味を持ってきた言葉です。それらが結びつき、「鏡に映る自分を見たくない」という具体的な場面から、「自分の欠点を見たくない」という人間一般の心理を表すことわざになりました。
形の近い言い方に「悪女は鏡を恐る」があります。こちらも、鏡が欠点を映し出すものとして働き、それを恐れる、または嫌がるという同じ発想に立っています。
現在このことわざを使うときは、容姿をからかうためではなく、自分の失敗や弱点を直視できない心の弱さを言い表すものとして用います。たとえば、注意された点を見直さない、反省材料を読まない、都合の悪い記録から目をそらす、といった場面に当てはまります。
したがって、「悪女は鏡を疎む」は、欠点を映すものを嫌う心を通して、反省の難しさを教えることわざです。自分に都合の悪いことほど、落ち着いて見つめる必要がある、という戒めを含んでいます。
「悪女は鏡を疎む」の使い方




「悪女は鏡を疎む」の例文
- 作文の注意書きを読まずにしまい込む態度は、悪女は鏡を疎むというものだ。
- 試合で負けた原因を映した動画を見ようとしない部員の様子に、悪女は鏡を疎むという言葉が当てはまる。
- 家計のむだを指摘されるたびに話題を変えるのは、悪女は鏡を疎むに近い態度である。
- 会議の反省点をまとめた資料を開かないままにする姿勢は、悪女は鏡を疎むというほかない。
- 友人から遅刻ぐせを注意されると不機嫌になるのは、悪女は鏡を疎むの典型である。
- 自分の失言を振り返る記録だけを削除しようとする行動は、悪女は鏡を疎むを思わせる。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。























