【ことわざ】
氏より育ち
【読み方】
うじよりそだち
【意味】
家柄や身分のよさよりも、育った環境や受けた教育・しつけのほうが、人柄や行動に大きな影響を与えるということ。


【英語】
・Birth is much, but breeding is more.(家柄も大切だが、育てられ方はそれ以上に大切である)
【類義語】
・生まれつきより育ちが第一(うまれつきよりそだちがだいいち)
「氏より育ち」の語源・由来
「氏より育ち」は、生まれながらの家柄を表す「氏」と、成長した環境や教育を表す「育ち」とを比べたことわざです。「氏」よりも「育ち」のほうを重く見ることで、人を形づくるのは家の名ではなく、日々の生活や学びであると教えています。
「氏」は、古くは共通の祖先をもつ人々の集団や、その集団を区別する名称を指しました。そこから、代々受け継がれる家の名や家系、家柄という意味でも使われるようになりました。
家柄という意味の「氏」は、平安時代の『宇津保物語(うつほものがたり)』(970〜999年ごろ成立)にも出てきます。このように、「氏」は早くから、その人がどのような家の系統に生まれたかを表す言葉として用いられていました。
一方の「育ち」は、単に体が成長することだけを表すものではありません。このことわざでは、成長の過程で置かれた環境や、家庭や周囲から受けたしつけ・教育など、どのように育てられたかという意味を表します。
「より」は、二つのものを比べる働きをもちます。そのため、「氏より育ち」という短い形だけで、家柄と育てられ方のどちらが人間形成にとって大切かを、はっきりと示しています。
このことわざは、『北条氏直時代諺留(ほうじょううじなおじだいことわざどめ)』(1599年ごろ・安土桃山時代)に収められています。十六世紀の終わりには、現在と同じ形で知られていたことが分かります。
この古い収録例からは、身分や家柄が重んじられた時代にも、生まれだけでは人の値打ちは決まらないという考えが共有されていたことがうかがえます。立派な家に生まれても、育て方が十分でなければ、立派な人柄や振る舞いは身につかないという戒めです。
現在の意味を具体的な人物の姿に重ねて示す古い用例は、近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)『丹波与作待夜の小室節(たんばのよさくまつよのこむろぶし)』(1707年・江戸時代中期)に出てきます。この作品は、大坂の竹本座で初演された世話物です。
作中では、乳母のしげの井が、幼いころに別れ、馬子として育ったわが子の三吉と再会します。しげの井は、三吉の生まれとは異なる暮らしぶりが、その姿に表れているのを見て、「ほんにうぢよりそだちぞ」と涙を流します。
この場面では、生まれた家や親が同じであっても、どのような環境で暮らしたかによって、身なりや振る舞いが変わることを表しています。「氏より育ち」ということわざの意味が、離れて育った親子の姿を通して切実に語られているのです。
古い形には、「氏より育て柄(そだてがら)」もあります。「育て柄」は、育てられた環境や育て方によって身についた性質を表し、「育ち」と同じ考えを、より詳しく示す言い方です。
江戸時代後期には、曲亭馬琴の読本(よみほん)『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』(1807〜1811年・江戸時代後期)でも使われました。ことわざが浄瑠璃や読本などの作品に取り入れられながら、広く受け継がれていったことが分かります。
「氏より育ち」は、生まれや家柄をまったく無意味なものとする言葉ではありません。人を評価するときには、家の名や親の身分ではなく、その人が身につけた礼儀や考え方、努力、日頃の行いを重んじるべきだと説くことわざです。
「氏より育ち」の使い方




「氏より育ち」の例文
- 氏より育ちというように、立派な家柄よりも、思いやりや礼儀を身につけることのほうが大切だ。
- 祖父は氏より育ちを口癖にし、家の名を誇るより、自分の行いを正すよう孫たちに教えた。
- 氏より育ちとはよく言ったもので、彼の誠実な人柄には両親の温かな教えが表れている。
- 採用担当者は氏より育ちの考えに立ち、家柄ではなく、本人の能力や仕事への姿勢を評価した。
- 氏より育ちを重んじる母は、成績だけでなく、挨拶や人への思いやりも厳しく教えた。
- 名門の出身であることを自慢する彼に、友人は氏より育ちなのだから、日頃の態度こそ大切だと諭した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・アルク『英辞郎』制作チーム著『英辞郎 第11版』アルク、2020年。
・『北条氏直時代諺留』1599年ごろ。
・近松門左衛門『丹波与作待夜の小室節』1707年。
・曲亭馬琴『椿説弓張月』1807〜1811年。























