【ことわざ】
医は仁術
【読み方】
いはじんじゅつ
【意味】
医術は、病人を治療することによって仁愛の徳を施す術であり、人を救うことが医者の道であるということ。


【英語】
・Medicine is a benevolent art(医学は慈愛に基づく術である)
【類義語】
・医道は仁術(いどうはじんじゅつ)
・仁術(じんじゅつ)
【対義語】
・医は算術(いはさんじゅつ)
「医は仁術」の語源・由来
「医は仁術」の「医」は医術や医療を指し、「仁術」は仁を施す方法、また、病人を治療して仁徳を施す医術を指します。つまり、このことわざは、医療を、人の苦しみを軽くし、命を救うための道としてとらえる考えから成り立っています。
「仁術」という言葉が医術と結びついた古い用例として、『智恵鑑(ちえかがみ)』(1660年・江戸時代前期、辻原元甫作)があります。この書には、医者の道は仁術であり、人の苦痛を助け、寿命をのばす職分であるという内容が述べられています。
『智恵鑑』は、仮名草子(かなぞうし)の一つで、中国の例話をもとにした教訓的な書物です。そこに「くすしの道」として医者の務めが述べられていることから、「仁術」は、単にやさしい心を表すだけでなく、治療にあたる者の責任を表す言葉として使われていたことが分かります。
現在の形に近い「医は仁術なり」は、『養生訓(ようじょうくん)』(1713年・江戸時代中期、貝原益軒著)巻六に出てきます。『養生訓』は、心身の健康を保つための心得を平易に説いた書物で、医者を選ぶことや、医者の務めについても述べています。
『養生訓』では、医者は仁愛の心をもとに人を救うことを志とし、自分の利益ばかりを目的にしてはならないと説きます。また、医術は人の生死に関わる大事な仕事であり、医者を「民の司命」と呼ぶほど重い職分であると述べています。
同じ巻では、医者には学問と技術が必要であること、医術が未熟であれば人の命を損なうおそれがあることも説いています。さらに、病人の貴賤や貧富によって態度を変えず、招かれたなら早く行き、心を尽くして病を治すべきだとしています。
この考えの背景には、中国医学の倫理もあります。『千金方(せんきんほう)』(唐代652年、孫思邈著)は、人命は千金より重いという意味をもつ医学書であり、『医心方(いしんぽう)』(984年・平安時代中期、丹波康頼撰)にも、その内容が引用されています。
『医心方』巻第一には、よい医者は欲や見返りを離れ、まず大きな慈しみの心を起こして、苦しむ人を広く救おうと願うべきだという趣旨の文が出てきます。これは「医は仁術」という言い方そのものではありませんが、医療を思いやりと救済の道として考える土台を示しています。
このように、「仁術」という医の理想が江戸時代前期の用例で示され、さらに『養生訓』で「医は仁術なり」という形として、はっきり述べられました。その後、この表現は、医者の使命の尊さを表す言葉として広まり、利益に走る医療を戒める場合にも用いられるようになりました。
「医は仁術」の使い方




「医は仁術」の例文
- 地域の診療所で長年働く医師は、医は仁術の心で高齢者の往診を続けた。
- 医は仁術という言葉は、医療に携わる人の責任とやさしさを思い出させる。
- 利益だけを優先する診療には、医は仁術の精神が欠けている。
- 災害の避難所で患者に寄り添う医療班の姿に、医は仁術という言葉が重なった。
- 医は仁術を胸に、若い医師は一人ひとりの患者の不安に耳を傾けた。
- 祖父は、医は仁術だからこそ技術だけでなく人を思う心も学ぶべきだと語った。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・近藤いね子・高野フミ編集主幹『小学館 プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・辻原元甫『智恵鑑』1660年。
・貝原益軒『養生訓』1713年。
・丹波康頼『医心方』984年。
・孫思邈『千金方』652年。























