【ことわざ】
臼から杵
【読み方】
うすからきね
【意味】
女性から男性に言い寄ること。また、働きかける方向や物事の関係が普通とは逆であることのたとえ。


【英語】
・the other way around(方向や順序が逆)
【類義語】
・寺から里へ(てらからさとへ)
「臼から杵」の語源・由来
「臼から杵」は、餅つきや穀物の精白などに用いる「臼」と「杵」の関係をもとにしたことわざです。臼は穀物や餅を受ける器であり、杵は臼の中へ振り下ろして、その中身をつく道具です。
実際の作業で動くのは杵であり、杵のほうから臼へ向かいます。この通常の向きを反対にし、「臼から杵」と表したところに、このことわざの面白さがあります。
臼と杵は、古くから一組で使われてきました。その形や働きの組み合わせから、杵を男性、臼を女性に見立てる民俗的な考えも生まれました。
この見立ては、「臼から杵」ということわざだけに用いられたものではありません。「臼と杵」という言い方もあり、男女が親しく結ばれることや、陰と陽とが調和することのたとえとして使われました。
『松風村雨束帯鑑(まつかぜむらさめそくたいかがみ)』(1706年ごろ・江戸時代中期、近松門左衛門作)には、「うすときね。ゐんやうわがう」という趣旨の一節が出てきます。臼と杵の組み合わせを、男女の結び付きになぞらえた用例です。
この用例からは、18世紀初めには、臼を女性、杵を男性に見立てる表現が文芸の中で通じていたことが分かります。「臼から杵」は、このような見立てに、方向を表す「から」と「へ」の考えを加えた言い方です。
現在の形に近い古い用例は、雑俳(ざっぱい)の『蓬莱山』(1709年・江戸時代中期)にあります。そこには、「正真の本にうすからきねへなり」と記されています。
雑俳は、江戸時代に広く楽しまれた、遊びの要素が強い俳諧です。『蓬莱山』の例は、「うすからきねへ」という形で、臼のほうから杵へ向かう逆方向を、すでに言葉遊びとして表しています。
杵を男性、臼を女性に見立てれば、「臼から杵」は、女性のほうから男性に働きかけることになります。当時は、男性から女性へ言い寄るのが普通だという考えがあったため、その反対を示す言い方として定着しました。
やがて、その意味は男女の間に限られなくなり、働きかける方向や物事の関係が、いつもの形とは逆になっている場合にも使われるようになりました。具体的な男女の見立てから、「物事が逆さまである」という広い意味へと伸びたのです。
同じ発想をもつことわざに、「寺から里へ」があります。普通は里の檀家から寺へ金品を届けるところを、寺から檀家へ届けるという逆の向きにして、立場や働きかけがあべこべであることを表します。
つまり、「臼から杵」は、臼と杵という身近な道具の動きと、そこに重ねられた男女の見立てから生まれました。江戸時代の雑俳に現れた形が受け継がれ、現在では、物事の向きや関係が普通とは反対であることを表すことわざとなっています。
「臼から杵」の使い方




「臼から杵」の例文
- 彼女のほうから結婚を申し込んだため、祖父は臼から杵だと驚いた。
- 通常は本社が支店に指示を出すが、今回は支店が本社へ改革案を示す臼から杵の展開となった。
- 招待される側が先に会の日取りを決めたので、臼から杵だと皆が顔を見合わせた。
- 客が店員に新商品の売り方を提案するとは、まさに臼から杵だ。
- いつも料理を教える父が娘に包丁の使い方を習い、臼から杵の一日になった。
- 町内会が学校に協力を頼むのが常だったが、今年は学校から申し出て臼から杵となった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館編『日本大百科全書』小学館、1984〜1994年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Merriam-Webster『Merriam-Webster.com Dictionary』。
・近松門左衛門『松風村雨束帯鑑』1706年ごろ。
・『蓬莱山』1709年。























